てんかんとは
てんかんとは、脳に発作的に異常が生じて、脳の一部または全体が一時的な機能障害を起こす病気です。それを繰り返すのが特徴です。発作中は脳の神経回路が一時的に異常な過活動状態になっています。通常、発作は1-2分以内に終わります。生まれつきの場合や、脳腫瘍、脳卒中、強い頭部打撲、髄膜炎や脳炎、神経変性疾患(認知症その他)なども原因になります。
一過性の状態ですので、発作がないときは普通に活動できます。ただ、発作があまりにも多い(毎週や毎日)と、長期的に脳の損傷が激しくなり、脳機能そのものが低下する可能性もあります。てんかんの治療(薬物治療・外科治療)は近年も進歩しています。てんかん診療には、詳しい病歴の聴取に加え、正しい脳波診断とてんかんに特化したMRIによる病変の見極めが重要です。
当院を受診される患者さまは
当院には、多くのてんかん患者さまが通院されています。
- てんかんの診断を受けて内服治療中の方
- てんかんに関する専門的な検査や診断を受けたい方
- てんかんについて、もしくは自身の治療について疑問がある方
- てんかんの疑いを感じる方
- 一人の専門医に長期的に診てもらいたい方
発作が落ち着いている方もいる一方、発作コントロールが難しい、いわゆる難治性てんかんの方も少なくありません。主に成人のてんかん患者さまですが、高齢てんかん患者さまや、学童期のてんかん患者さまも来られます。成人して、小児科から紹介を受けた患者さまも多数受け入れています(トランジションと呼びます)。
未就学児や乳児のお母さんが、お子さんのてんかんを心配して受診される方も時々います。お話を伺ったうえで、疑わしい場合には詳しい検査や小児神経科への紹介が必要かどうかを判断しております。
てんかんについて知ろう
てんかんは、主に「全般てんかん」と「焦点てんかん」に分類することができます。
- 焦点てんかん
- 大脳の一部に発作を起こしやすい場所があり、そこから発作が広がるもの。
- 全般てんかん
- 発作の始まりと同時に脳全体が発作に巻き込まれるもの。
焦点てんかんの症状の例
自分自身でわかるもの(意識が保たれる発作)
- 胸がむかむかする
- 妙な匂いが生じる
- 不安感、恐怖感
- 懐かしい感情になる
- 手足が痙攣する、痺れる
- 言葉が出なくなる
- 視界の一部がおかしくなる
自分自身ではわからないもの(意識がはっきりしない発作)
- 痙攣を伴う
- 手足を大きく動かす
- 呼びかけに反応せず、固まっている、一点を見つめている
- 落ち着かない感じで、呼びかけに反応しない
全般てんかんの症状の例
- 全身の痙攣を伴う
- 全身の硬直を伴う
- 手や足がびくっと動く
- ただ固まっている
- バタンと倒れる
てんかん診断の流れ
てんかんの診断には、病歴の聴取、そして脳波検査は必須です。
正確な病歴の聴取
てんかんは、発作的に起こる病気です。発作の時の状態を見ることができれば最もよいのですが、主治医が患者さまの発作を直接見ることができるのは稀なことです。
そこで、病歴の聴取が重要です。
自覚症状として、
- 異常を感じる直前の状況
- 発作中の症状
- 発作の持続時間
- 発作後の記憶
周囲の目撃者の情報として、
- 体のどこから始まったか
- 表情、顔色、発声
- 目や頭の向き
- 四肢の痙攣や突っ張り
- 左右差
- 意識はどうだったか
- 発作の持続時間
- 発作後の様子
をなるべく詳細に主治医の先生に伝えましょう。
可能なら、発作の状況を動画撮影して医師に見せるとよいでしょう。
脳波検査
てんかんの診断において、脳波検査は大変重要です。
てんかんのある患者さまの脳波では、てんかんのない方には見られない特徴的な“棘波(きょくは)”と呼ばれるものを認めることがあります。これは、てんかんに特徴的な波で、これがあればてんかんの疑いが極めて高いと言えます。
ただ、棘波がないからといって、てんかんではないとは言い切れません。棘波を検出するためには、光刺激や過呼吸、睡眠賦活などの工夫が重要です。また、はっきりしない場合には脳波検査を繰り返したり、長時間脳波記録を行うことも有用です。
脳波検査の結果の判断には、経験豊富な脳波専門医による脳波判読が望ましいです。
MRI検査
てんかん診断のために大切なもう一つの検査として、MRIが挙げられます。MRIの異常は、全てのてんかん持ちの方で見つかるわけではありません。しかし、MRIでてんかんと関連する異常が見つかった場合、診断と治療方針決定にあたり大変重要な証拠になりえます。
てんかんの原因となりえるMRI病変の例
- 脳梗塞や脳出血(脳卒中)
- 脳の外傷(脳挫傷など)
- 脳腫瘍
- 先天性(生まれつき)の脳の形態異常
- 脳炎
- 病的な脳の部分的な萎縮など
- 脳の手術後
その他
てんかんと紛らわしい病気を区別するため、血液検査や心電図などを行うことがあります。
てんかんの治療において重要なこと
てんかんの治療は薬物治療と外科治療、生活指導に分類されます。
薬物治療
治療の最も重要な柱は薬物治療です。
2006年以降、我が国でも多数の新薬が承認され、患者さまの選択肢も多様化しています。正しいてんかんの発作分類に基づき、適切な薬の処方を受けることは、とても重要です。
一方、抗てんかん薬は脳の機能に直接作用する薬であり、副作用にも特に配慮が必要です。特に、古くからの抗てんかん薬には、多くの副作用があります。
更に、薬を漫然と内服するのが治療ではありません。
薬の内服を続けるかどうかは、患者さまのてんかん分類、発作の頻度、社会的背景(学生さん、社会人、退職後など)、運転の要否、妊娠の可能性などを考慮の上、柔軟に対応することが望まれます。
多様な薬の選択肢を適切に使い分けるだけの知識と経験のあるてんかん専門医と共に治療していきましょう。
生活指導
運転や妊娠に関する生活指導を受けることも重要です。また、てんかん患者さまが日常生活(内服・食事・入浴・睡眠・運動・仕事・旅行など)において気を付けるべきことはいろいろとあります。病気の際の対処や、予防接種の可否についても主治医に尋ねておきましょう。
難治性てんかんに対して
当院は、発作が抑えられない難治の方にも対応しています。治療の中心は抗てんかん薬の内服治療ですが、一部の患者さまでは、外科治療(手術)により発作が消失・著しく減少する可能性があります。外科治療の中でも、迷走神経刺激療法はすべてのてんかんに対して選択肢となりえる有力な選択肢です。外科治療の要否・可否の評価は、てんかん手術に精通したてんかん専門医に相談しましょう。
※迷走神経刺激療法:頚部を走る迷走神経に挿入した電極を通じて微弱な電流を流し、発作を軽減する治療です。