生活習慣病とは、「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」と定義されています。
代表的な病気として、高血圧症、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、肥満などが挙げられます。生活習慣病は自覚症状に乏しいのですが、血管が痛むこと(動脈硬化)により脳卒中や心疾患などの重篤な病気を引き起こすリスクが高まります。
高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満のうち複数が併発すると動脈硬化の進行が加速し、脳卒中や心臓病を起こす危険が一段と高まります。このため、これら4つの生活習慣病は「死の四重奏」と呼ばれています。動脈硬化を抑えるためには、これら4つの生活習慣病をしっかり管理することが大切です。
脳卒中は日本人の死因の第3位、寝たきりの原因の第1位です。何年も放置していると脳動脈の血管が痛んで、ある日突然倒れてしまうことになりかねません。
生活習慣病を指摘されても無症状のため、治療する必要性を実感できずに、治療を先延ばしすることになりがちです。当院では、患者さまのご希望に耳を傾けながら、どのようなことに気を付けて、いつまで様子をみるのか、それと速やかに薬を開始したほうがいいのかを丁寧に説明し、ご納得いただける方向性を一緒に考えていきます。
高血圧症
高血圧の方は全国で3000万人と推定されます。実際に治療を受けているのは約1000万人と推定されていますから、多くの人が放置している可能性があります。健康を維持しつつ長生きするには、120/80mmHg未満が推奨されています。普段の血圧が140/90mmHgを上回る人は積極的な降圧療法に取り組むべきと言えます。
成人における血圧値の分類(mmHg)
高血圧を放置するとなぜ悪い?
高血圧になると常に血管の壁に強い負荷がかかるようになるため血管が傷つきやすくなり、柔軟性がなくなって硬くなり、「動脈硬化」と呼ばれる状態に陥りやすくなります。血圧が多少高くても特に自覚症状がないため放置されがちです。気付かないうちに動脈硬化が進行し、放置しているとある日突然命にかかわる重篤な病態になってしまうため、「サイレントキラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれています。その他、脂質代謝異常症、糖尿病も、サイレントキラーの一種です。
高血圧と関連の深い病気は?
高血圧の関わる病気には、脳卒中や心疾患、慢性腎臓病などがあります。
とりわけ、高血圧によって最もリスクが高まるのが、脳卒中です。脳卒中には脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などがあり、いずれも高血圧が深く関わります。
収縮期血圧(最高血圧)が10mmHg上昇すると、脳卒中のリスクが男性で約20%、女性で約15%高くなります。
なお、脳卒中の発症率がもっとも低いのは、収縮期血圧<120mmHgかつ拡張期血圧<80mmHgだと報告されています。
ただし、75歳以上の高齢者の降圧目標は140/90mmHg未満と若干緩やかです。なお、併存疾患などによっては、75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指します。
一般に血圧は、高齢になるほど高くなる傾向があります。しかし比較的若い世代でも、30歳代の1~2割、40歳代2~3割以上は高血圧の状態です。若い世代では大部分の人が治療を受けていませんが、高血圧を長期間放置していると、動脈硬化も進行します。一方、若年性の高血圧は食生活や生活習慣の見直しで改善の余地もあります。「高血圧かも」と思ったら躊躇せずに受診して相談してください。
高血圧の治療は?
高血圧症の治療の柱は、食事、運動、薬物療法になります。食事では、カロリー制限と塩分制限が重要です。食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない場合には、薬物療法を開始します。
脂質異常症:高コレステロール、高中性脂肪
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪が増加した状態です。以前は高脂血症と呼ばれていました。脂質が過剰になると、動脈硬化を促進させ、脳梗塞や心筋梗塞につながります。
脂質異常症の診断基準
悪玉コレステロールが140mg/dL以上、中性脂肪が150mg/dL以上の方は脂質代謝異常に該当します。日本人の2割近くに脂質代謝異常があると言われていますが、実際に治療を受けているのは約200万人です。
コレステロールや中性脂肪が高いとどうなる?
血液中のコレステロールが多いと血管の壁に沈着し、こぶ(プラーク)が形成され血管が硬くなり、「動脈硬化」を引き起こします。動脈硬化が進行すると、血管の中が狭くなって血流が悪くなったり、こぶが破れて剥がれて末梢血管に流れていったりして、血管を詰まらせます。脳の血管が詰まるのが脳梗塞、心臓の血管が詰まるのが心筋梗塞です。コレステロールが高いと、こうした血管障害を発症するリスクが2~3倍程度に上昇します。
また、中性脂肪が高くても間接的に動脈硬化が進行し、脳梗塞、心筋梗塞の一因となります。
数値がどのくらいになったら治療が必要?
日本のガイドラインでは、治療の指標となる数値が年齢、性別、家族歴、高血圧や糖尿病の有無などにより細かく分類されていて、各個人ごとに異なります。糖尿病のある方ではLDLコレステロールを120mg/dl以下にすることが望まれます。また、脳梗塞や心筋梗塞二次予防としては100mg/dl以下にする必要があります。
脂質異常症の治療は?
脂質異常症の治療の3本柱は、他の生活習慣病と同様に、食事療法、運動療法、および薬物療法です。食事・運動療法を試みても十分な効果が得らえない場合には薬物治療を検討します。脂質異常症の治療薬には、主にLDLコレステロールを下げる薬や、トリグリセライドを下げる薬があります。
糖尿病
糖尿病は全身の血管や神経に障害を与えるため、糖尿病の患者さんは寿命が短くなると言われます。そのことは脳血管や神経にも通じます。糖尿病は脳卒中の重要な危険因子です。
糖尿病の怖い合併症
糖尿病になると、血液中の糖(グルコース)が過剰な状態になります(高血糖)。高血糖状態が続くと血管が傷み、血管障害、動脈硬化が進行し、厄介な「合併症」を引き起こします。特に、網膜症、神経障害、腎症は三大合併症と呼ばれ、注意が必要です。
- 糖尿病神経障害
- 手足のしびれや痛み、手足の先の感覚が鈍くなる、立ちくらみ、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害などの症状が出ます。しびれは手袋や靴下で覆われる部分に、左右対称に現れる傾向があります。重症化すると手足の先に潰瘍や壊疽(えそ:体組織の腐敗)を起こす原因となります。
- 糖尿病網膜症
- 血糖値が高い状態が続くと細い血管が詰まるため酸素や栄養分が不足し、網膜症を発症します。初期には自覚症状がほとんどないため、治療が不十分だと気付かない間に病状が進行し、失明に至ることもあります。早期発見、早期治療が重要であり、眼科で定期検査を継続する必要があります。
- 糖尿病腎症
- 腎臓は、血液をろ過して尿を作る重要な臓器であり、毛細血管が密集しています。高血糖により腎臓の毛細血管がむしばまれていくのが、糖尿病腎症です。糖尿病腎症が進行すると、血液透析治療を要することになります。
糖尿病腎症は、日本における透析導入の原因の第1位の疾患であり、患者数は年々増加しています。
- 動脈硬化・大血管症
(脳卒中・心臓病)
- 糖尿病は動脈硬化の原因であり、脳卒中や心臓病を引き起こします。 特に、食後の高血糖が動脈硬化を進行させることが知られています。
動脈硬化が進むと、血流が途絶えたり、血管にこびりついているプラークがはがれたりして血管が詰まり、脳や心臓の機能に障害が起こります。
「糖尿病」の診断は?
糖尿病の診断は、血糖値とHbA1cの値で判定することになっています。
「血糖値(グルコース)」は、検査をした瞬間にどのくらいの糖が血液中を流れているかを表しています。食事による影響が大きく、一日の中でも大きく変動します。
「HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)」は、過去1~2ヶ月間の血糖値の平均値を反映し、とても重要な指標です。
下記のいずれかに該当すると糖尿病の疑いがあります。
- HbA1cが6.5%以上 (HbA1cの正常上限は6.2%)
- 早朝空腹時の血糖値が126mg/dl以上
- 好きな時に計測した血糖値が200mg/dl以上
- 経口ブドウ糖負荷試験の2時間値が200mg/dl以上
当院における糖尿病の治療は?
当院では、脳卒中予防の立場から、当院を受診された患者さんの糖尿病に対する食事・運動指導及び薬物治療を行っております。
また、脳卒中のリスク評価として、徴候がある場合にはMRIや頚動脈エコーによる動脈硬化性疾患のリスク評価を行っています。末梢神経合併症に対しては、末梢神経伝導速度検査を行っております。その他、目や腎臓の合併症の疑いがある場合、お近くの専門医と連携して診療にあたっております。
なお、当院では、インスリンや注射による治療は行っていません。このような治療が必要な場合には、お近くの糖尿病専門医をご紹介させていただきます。
肥満症
メタボリックシンドロームは、腹部肥満をベースにして、高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上の症状が一度に出ている状態を言います。メタボリックシンドロームになると、心臓の動脈(冠動脈)などの動脈硬化が進行し、心筋梗塞などの心疾患を引き起こしやすくなります。