脳脊髄液減少(漏出)症
脳脊髄液減少(漏出)症とは
特殊な頭痛として、脳脊髄液減少症と呼ばれるものがあります。近年、しばしば新聞やテレビの特集でも取り上げられているので、一般の方の中にもご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
脳脊髄液減少症とは、脳脊髄液が慢性的に減少した状態となって頭痛などが生じる病態です。
むち打ち症との区別が問題となった歴史的経緯がありますが、従来むち打ち症とされていたもののごく一部に脳脊髄液減少症があると考えられます。現在も、この病態の存在に関して疑問を感じている医師も少なからずいます。
原因は – 脳脊髄液の漏出と脱水
脳や脊髄(これらを中枢神経とも呼びます)は、脳脊髄液の中に浮いている状態にあり、中枢神経と脳脊髄液は硬膜に包まれています。
硬膜の中の主要な構造物として、中枢神経、脳脊髄液のほかに血管があり、これらは均衡を保って内部環境を一定に整えています。そして、人の血圧というものが計測できるのと同じように、頭蓋内圧というものがあります。健常人において、頭蓋内圧は100~180mmH2O(≒8~13mmHg)に維持されるようになっています。
原因として、脳脊髄液が硬膜の外に漏れだす病態(脳脊髄液漏出症)と、脳脊髄液の産生量不足(背景として脱水など)が考えられています。
脳脊髄液漏出症とは、何らかの原因で脳脊髄液が硬膜の外に漏れだすことにより生じるものです。脳脊髄液減少症の人では、脳脊髄液が漏れ出すことで頭蓋内圧を維持することができずに低下します。このため、頭痛を感じるようになります。
ただ、病気の本体は脳脊髄液の減少にあります。脳脊髄液の減少と頭蓋内圧の低下とは必ずしも一致せず、頭蓋内圧は必ず低いわけではありません。
主な原因として、交通事故、スポーツ外傷、転倒などが挙げられますが、特殊なケースとしては出産、腰椎穿刺検査、脱水などもあり、原因不明のこともしばしばあります。
症状は – 頭痛(起立性頭痛)、めまい、吐き気、全身倦怠感
主な症状は頭痛です。それも、通常の頭痛とは異なる特徴を有しています。頭痛は頭蓋内圧の変動(低下)が引き金となって起こりますので、寝た状態から急に起き上がったときなどには悪化します(起立性頭痛)。立っていると頭蓋内圧が維持できずに頭痛が生じるので、寝た状態を好むようになります。
脳脊髄液減少症を取り扱っている施設は比較的限られるのですが、この疾患を多く取り扱っている施設では、起立性頭痛は必ずしも全ての患者に現れるわけではないと考えています。
頭痛のほかに、頚部痛、めまい、吐き気、全身倦怠感、自律神経症状、耳鳴り、うつ、睡眠障害、内分泌異常、免疫異常などを伴うこともあるとされています。
検査と診断
MRI、脳槽シンチ検査を行います。
造影剤を使用した脳のMRIでは、① び漫性硬膜増強、② 脳下垂、③ 硬膜下髄液貯留、硬膜下血腫、④ 脳室狭小化、⑤ 下垂体腫大、⑥ 静脈、静脈洞の拡張などがあります。
上図は、脳脊髄液減少症の造影MRI画像。硬膜が肥厚し、造影剤により白く描出されている(矢印)。
下図は、正常例。造影剤による硬膜の増強効果を認めない。
脊髄のMRIでは、①くも膜下腔外の液体貯留、②硬膜外液体貯留、③硬膜増強、④硬膜外静脈叢拡張などを認めます。
脳槽シンチ検査とは、腰椎穿刺により放射性同位元素を硬膜の中(くも膜下腔;脳脊髄液の中)に注入し、脳脊髄液に混ざった放射性同位元素のその後の分布を捉える検査です。
正常では、硬膜から放射線同位元素が漏れることはありませんが、硬膜から漏れている場合には硬膜の外に放射線同位元素が漏れ出している所見を確認できることがあります。また、こうした所見はなくとも、頭蓋内の円蓋部(表面)に放射線同位元素が十分に到達していない所見や、早期に膀胱に到達して排泄され、24時間後に体内に残存した放射線同位元素が著しく減少する所見などが得られます。
施設によっては、CTミエログラフィーやMRミエログラフィーといった諸検査行うことがあるかもしれません。
治療は?
最も初歩的な治療としては、生理食塩水の点滴と臥床安静の継続になります。これには2週間程度を要します。水分の経口摂取も有効です。
ただ、通常はこれだけで治癒しがたいので、硬膜外自家血注入療法(ブラッドパッチ)を行います。患者自身の末梢血(腕などから採取した血液)を、腰椎穿刺により硬膜外に注入します。効果には個人差があり、2~3回必要になることもあります。
ブラッドパッチは、先進医療としての認可のもと行われていましたが、2016年4月からは医療保険が適用されるようになりました。
気になる方は、お近くの脳神経外科、もしくは脳脊髄液減少症を積極的に取り扱っている病院を受診してみてはいかがでしょうか。