片頭痛
片頭痛とは
最も有名な頭痛である「片頭痛」は、頭部の血管が拡張してズキンズキンとして起こる拍動性の頭痛を特徴とします。
一次性頭痛(病変を伴わない頭痛)の代表の一つです。
片頭痛は“片”という文字通り、基本的に頭の片側のみに生じます。生じやすい側は左右の一側に偏っていることが多いですが、どちらにも生じてもおかしくありません。
片頭痛の原因は?
血管説
セロトニンという物質が脳の太い血管(内頚動脈)に作用して、収縮のあとに異常拡張することが原因として有力視されています(血管説)。
三叉神経血管説
セロトニンの働きに加え、脳を覆う硬膜と脳血管に分布する三叉神経(頭部の感覚神経)の刺激の関与を絡ませて提案されたのが「三叉神経血管説」です。
この説では、三叉神経終末から「痛み物質;カルシトニン遺伝子関連ぺプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)」が放出されて痛みが生じると考えられています。
片頭痛の特徴は?
典型的には、片側の激しい頭痛です。
主に、こめかみから目の周囲、目の奥に感じます。ひどくなると頭全体に広がります。
片頭痛が生じると、4時間から時に3-4日にわたるほどの長い間、頭痛が続きます。ひどい人は吐き気やおう吐を伴い、日常生活を続ける活こともできなくなって寝込んでしまいます。
ただし、必ずしも片側とは限らず、両側の前頭部のこともあります。
頭痛の発作時には、光や音、匂いに過敏になり、光がまぶしくなったり、音がうるさく聞こえたり、匂いが不愉快に感じることも少なくなりません。
頭痛発作が落ち着いた後にも、筋力低下や疲労感、食欲低下などを感じる方も少なくなく、この時期は後兆期とも呼ばれます。
女性に多く、青年期~壮年期でよくみられ、老年期には落ち着くことが多いようです。一方、未成年や幼少期に発症する方も、閉経後に発症する方もいます。
閃輝暗点を伴う片頭痛
典型的な片頭痛の患者さんの場合、まず「閃輝暗点」と呼ばれる前兆を伴います。閃輝暗点とは、突然視野にチラチラあるいはギザギザとした光が見え出して広がっていき、次いで視野の一部が見えづらくなる現象です。見えるものは、万華鏡の模様やオーロラのようなもののケースもあります。15-20分程度で消えます。そして、前兆が終了するころから次第に頭痛が起こります。
このような前兆の経験がある人は全体の1/3程度(実際にはもっと少ない印象です)で、前兆を伴わない人も多く存在します。
その他の前兆を伴う片頭痛
特殊な前兆として、感覚症状(チクチク感など)や運動症状(腕や足の脱力)、言語症状(発話困難など)などがあります。数分から1時間程度続き、頭痛が始まっても持続することがあります。前兆として運動症状を呈するものは、片麻痺性片頭痛と呼ばれます。
前兆を伴わない片頭痛
「閃輝暗点」を伴わないタイプの患者さんも少なくありません。このような患者さんでも、「頭痛が来そうだ」という予兆を感じることがあります。例えば、イライラ、落ち着きのなさ、眠気、あくび、疲労感、首の凝り、体のむくみ、空腹感などがあると言われています。このような症状(予兆)は、片頭痛発作の数時間から1~2日前に感じることが多いようです。
空腹時には頭痛が起こりやすいので、1日3回の食事を規則正しく摂取することは大切です。
生活習慣と発作
片頭痛の患者さんのうち、約3/4の方では何らかの誘因があると言われています。
天候の変化、特に天気がどんよりとして低気圧が来るときもしくは雨降り前に頭痛発作が起きる方は非常に多いです。
一方、日差しの強い、炎天下が誘因になる場合もあります。
ストレスは片頭痛と関係があると言われますが、ストレスから解放され、ほっとした瞬間などもにも片頭痛が起こりやすいかもしれません。
寝不足や、逆に寝過ぎも悪いとされます。平日の睡眠時間が極端に短かったり、週末にダラダラと寝るのも良くないかもしれません。
騒音や光、におい、人混みなども誘因と考えられています。
女性の場合、生理周期と関係がある場合も少なくありません。
食べ物との関係では、チーズやチョコレート、赤ワインには、片頭痛を誘発する成分(チラミン)が含まれているので、避けたほうがいいかもしれません。チラミンはピーナッツ、豆類豚肉、魚の燻製や干物などにも少し含まれています。
その他、硝酸やグルタミン酸ナトリウムを含む食べ物も、一部の人では注意が必要です。
アルコールや喫煙も避けたほうがいいでしょう。
経口避妊薬の使用や エストロゲン療法により片頭痛が悪化することがあります。なお、前兆を伴う片頭痛をもつ女性では、脳卒中のリスクが高まるという報告があり、注意が必要です。
参考ページ:片頭痛予防のためにできること
片頭痛の薬
片頭痛持ちの患者さんに、普通の痛み止め(頭痛薬)を使っても十分な効果が得られません。
消炎鎮痛剤
比較的症状の軽い方であれば、アセトアミノフェンや消炎鎮痛剤(NSAIDs;イブプロフェンやロキソプロフェンなど)でも効果があります。
トリプタン製剤
NSAIDsでは不十分な方の場合には、セロトニン作動薬(トリプタン製剤)が有効です。
トリプタン製剤の服用のタイミングは重要です。頭痛が始まった直後にトリプタン製剤を内服すると頭痛が抑えられることが多いです。一方、頭痛がかなり強くなってから飲んでも効果は不十分です。
わが国では現在5種類の内服薬が販売されています。それぞれの特徴があり、有効性も個人によって変わります。また、点鼻薬や自己注射タイプの皮下注射薬もあります。
なお、先発品の場合、1錠で薬価が700円-900円(3割負担で200-300円)ほどする高価な薬ですので注意が必要です。また、この薬は「片頭痛」以外の頭痛には使用できず、一般には効果もありません(例外もあります)。
トリプタン製剤の禁忌に、片麻痺性片頭痛、脳底型片頭痛があります。
片頭痛予防薬
慢性的に片頭痛が起こる人には、トリプタン製剤以外のいくつかの予防薬を定期的に飲んで発作を抑えることも選択肢としてあります。
予防薬:
・β遮断薬(プロプラノロール;インデラル)
・カルシウム拮抗薬(ロメリジン;ミグシス)
・抗てんかん薬(バルプロ酸;デパケン、セレニカ)
・抗うつ薬(アミトリプチリン;トリプタノール)
・漢方薬
など。
他に、抗てんかん薬のトピラマートやガバペンチンなどにも片頭痛予防効果があることが知られています(保険適応外です)。
どの予防薬にしても、効果には個人差があります。
片頭痛の方の多くでは吐き気を伴うことが多いので、吐き気止めを用いるのも有効です。
新たな予防薬(皮下注射薬):
最近、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連の新しい治療薬が次々と発売されています。いずれも皮下注射薬です。4週から1か月に1回皮下注射することで、頭痛の頻度を減らすものです。
・ガルカネズマブ注射液(エムガルティ):抗CGRP抗体薬
・フレネズマブ注射液(アジョビ):抗CGRP抗体薬
・エレヌマブ注射液(アイモビーク):抗CGRP受容体抗体薬
参考ページ:片頭痛治療薬一覧