その他の潜在性二分脊椎
緊縛終糸/肥厚終糸
(tight filum terminale/thickened filum terminale)
終糸とは、脊髄の尾側の末端から繋がる糸のように細い組織です。
MRIで第5腰椎/第1仙椎レベルで終糸が2mm以上に太くなっている場合と、脊髄円錐が第2/第3腰椎以下の低位にある場合に緊縛終糸と診断します。二次神経管の形成異常とされます。
緊縛終糸があると、脊髄が引っ張られて係留症候群を呈することがあります。脊髄脂肪腫と同様で、排便や排尿に関する機能障害(膀胱直腸障害)や、下肢の運動感覚障害などが生じることがあります。係留の程度にもよりますが、症状の出現は脊髄脂肪腫の大きなものと比較すると遅かったり、軽かったりします。
臀裂部(お尻の割れ目)に近い腰のあたりの皮膚に異常があることもありますが、まったくないものも多いです。
しばしば、直腸や肛門のあたりの先天性奇形を伴うものもあり、caudal regression syndromeと呼ばれます。
円錐のレベルが低い症例や、症状を伴う症例については、手術が勧められています。手術では、この終糸を切断します(脊髄係留解除術)。緊縛終糸では、症状の程度は脊髄脂肪腫と比較して軽いことが多いのですが、手術は脂肪腫と比較すると容易です。脊髄終糸が存在する部位には沢山の脊髄から出た神経根があり、上から下に向かって並走しています。終糸は大きさや形が神経根と似ていますが、終糸が真ん中の一番を走行し、色が青白く表面に細い血管が走行していることから区別します。また、術中には、神経を電気刺激して下肢や肛門の運動機能の反応がないかどうかを確認しながら操作を進めます。
先天性皮膚洞
(spinal congenital dermal sinus)
外肺葉が皮膚と神経に分離する際に、皮膚になる細胞が神経管の内部に取り込まれて、皮膚から脊髄にまで連蔵する皮膚の穴が生じてしまうと先天性皮膚洞と呼ばれます。腰~臀部に最も多く発生します。一時神経管の閉鎖障害とされています。
皮膚洞の穴はごく小さなものですが、しばしば周囲には毛や色素沈着を伴います。
皮膚洞があると、そこから穴を通って細菌が脊髄や硬膜内に入り込み、膿瘍や髄膜炎を生じます。こじらせると、脊髄の機能障害を起こします。幼少期に炎症を起こして見つかることが大半です。
時に、皮膚洞の最も奥には類上皮腫と呼ばれる腫瘍を伴うことがあります。
手術では、皮膚洞全体と、類上皮腫を伴っている場合にはこれを摘出します。
髄膜瘤
(spinal meningoele)
二分した脊椎の間から硬膜が皮下に飛び出していて、皮膚が瘤のように膨らんでいます。髄膜瘤は健常な皮膚に覆われていて、皮膚の下に膨らんだ硬膜の中には、くも膜と脳脊髄液が入っています。
腰仙部(腰~骨盤のあたり)に多く発生します。発生頻度は、脊髄髄膜瘤の1/5~1/10と少ないです。
生まれたころには無症状のことが大部分ですが、皮膚が損傷して瘤が破れると神経組織が傷ついたり感染症(髄膜炎)を引き起こしたりする可能性があるため、生後早期に修復を行います。手術では、脊柱管から飛び出ている神経組織があればそれを脊柱管の内部に戻し、硬膜を形成的に作り直し、その表面に筋肉・筋膜・皮下組織・皮膚を形成します。
なお、髄膜瘤には、緊縛終糸などを伴っていて脊髄係留症候群を起こす可能性がある症例が多く含まれますので、これに対する処置も同時に行います。
脊髄嚢胞瘤
(terminal myelocystocele)
脊髄の末端(お尻に近いところ)に発生します。二次性神経管形成期の異常です。脊髄の中にある細い孔(中心管)が異常に拡大して膨隆します。脊髄の末端は皮膚にひっついた状態となり、係留が生じます。一方、体表から見ると大きな瘤のようになります。
症状は、脊髄係留に伴うものになります。
その他、しばしば、脊髄の異常(sinal anomalies)に総排泄孔外反(cloacal exstrophy)、臍帯ヘルニア(omphalocele)、鎖肛(inperforate anus)を合併している症例をしばしば認め、OEIS症候群と呼ばれます。
Limited dorsal myeloschisis(LDM)
一時神経管の閉鎖が部分的に不完全な形で終わり、脊髄と皮膚組織が限局的に分離されずに残ったものと考えられています。 従って、一時神経管の閉鎖障害です。
硬膜に非常に小さな穴があり、そこを通して脊髄が皮膚と繋がっているので、係留症候群を起こしえる状態です。症状は発生部位にもよりますが、上肢の麻痺であったりします。
表面から見ると、背中の真ん中あたりにのう胞もしくは何らかの皮膚異常を伴っています。のう胞を伴わないものでは、背中の正中部に小さな凹み(cigarette burningと呼ばれます)があり、これから策状の組織が脊髄に続いています。このタイプをmeningocele manqueとも呼びます。このタイプは先天性皮膚洞との区別が難しいのですが、切除した索状物の標本で皮膚の成分であれば皮膚洞ということになります。
手術では、病変部を切り離し、硬膜を修復します。無症状の症例の場合には術後に新たな神経症状が出現することは少なく、係留症候群を呈している症例でも半数以上で回復が期待できるという報告があります。
尾側脊椎退化症候群
(caudal regression syndrome)
二次性神経管形成期の異常です。胎生期に、脊髄と脊椎の一番お尻に近いところには、caudal cell massと呼ばれる様々な分化能を持つ未分化な細胞集団が出現しますが、caudal cell massの発生異常が原因となって生じるのがcaudal regression syndromeです。仙骨の形成不全や、脊髄円錐、排泄・泌尿生殖器異常などを伴います。
OEIS症候群(臍帯ヘルニアomphalocle、総排泄孔外反cloacal exstrophy、鎖肛inperforate anus、spinal anomalies)
VATER症候群(椎骨奇形vertebral anomalies、鎖肛anal imperforate、期間食道瘻tracheoesophageal fistula、renal-radial anomalies腎・橈骨奇形)
Currarion の3徴(肛門直腸奇形anorectal malformation、仙骨奇形sacral anomalies、前仙骨腫瘤presacral masses)
などがあります。
前仙骨髄膜瘤
(anterior sacral meningocele)
仙骨の一部が欠損しており、そこから神経組織が前方の骨盤内へと脱出した髄膜溜です。二次神経管形成期の異常と言われます。体表からわかる異常はありません。大多数が女性です。
遺伝性(常染色体優性遺伝)の、Currarion の3徴(肛門直腸奇形anorectal malformation、仙骨奇形sacral anomalies、前仙骨腫瘤presacral masses)の一部としても生じます。
髄膜瘤が大きく、内臓を圧迫して慢性便秘や排尿障害などを起こすことがあります。また、肥厚終糸(tight filum terminale)などを合併して係留症状を出すこともあります。稀ですが、瘤が破れて髄膜炎になったり、大きな瘤に脳脊髄液が溜まって低髄液圧症候群を呈することも報告されています。
妊娠中に超音波検査で発見されることもあります。その場合には帝王切開が勧められています。
手術では、背中からアプローチして瘤の閉鎖を行い、また係留があればそれを解除します。
分離脊髄奇形
(split cord malformation;SCM)
脊椎や皮膚ではなく、脊髄(中枢神経組織)が2つに分かれているものを指します。2つに分かれた脊髄の間に骨や軟骨による中隔がある場合(I型)と、線維性の中隔のみの場合(II型)とがあります。二次性神経管形成期の異常です。
I型では、硬い中隔によって部分的に二つに分かれた脊髄が固定されて可動性がなくなり、また成長とともに頭側へ上がっていけない(係留)ために生じると考えられています。下肢の非対称性の運動障害や筋萎縮、感覚障害、膀胱直腸障害、足の変形などの症状を伴うことがあります。表面の皮膚に限局性の多毛を認めることがあります。女性に少し多いようです。
一方、分離脊髄奇形はしばしば脊髄髄膜瘤や脂肪腫を合併することもあるため、こうした合併奇形による症状との区別は容易ではありません。手術では、硬い中隔を切除して係留を解除します。
II型の場合、骨性の中隔はありませんが、線維性の中隔やその他により係留がある場合にはそれを解除する必要があるかもしれません。