認知症の分類
多様な認知症があります
認知症の最も代表的なものに、有名なアルツハイマー型認知症があります。
一方、他にも脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、さまざまな種類の認知症があります。その他、外傷性脳損傷、物質・医薬品の使用、HIV感染、プリオン病、ハンチントン舞踏病など、全部で200~300くらいの原因が存在すると言われています。
治療可能な認知症
正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など脳外科手術により症状の改善が見込める病気や、甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏症など薬物治療により改善する認知症もあります。こうした病気では、認知症の分類の早期の正確な診断が極めて重要であり、適切な治療や処置により回復が見込めます(treatable dementia)。
一次的要因と二次的要因
認知症の原因として、上述のような脳そのものの病変の影響を一次的要因と呼ぶのに対して、脳以外の身体的、精神的ストレスの影響を二次的要因とも呼びます。二次的要因には環境の変化、人間関係、不安・抑うつ・混乱、身体的苦痛などがあります。
認知症は、一次的要因と二次的要因が相互に影響を及ぼしあって進行するものです。入院や施設入所、慣れない土地への引っ越しなどの生活環境の変化、定年退職や配偶者との死別などの生活習慣の変化や心理的影響などは、認知症の症状出現や進行のきっかけにもなりかねません。
代表的な認知症
このように認知症の原因は多種多様ですが、アルツハイマー病、脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つを合わせると認知症の原因の約90%を占めるもので、「4大認知症」とも呼ばれています。
アルツハイマー型認知症は原因の50~60%を占めます。脳血管型認知症とレビー小体型認知症はそれぞれ20%弱を占めます。これら3つの認知症をあわせて「3大認知症」と呼ぶこともあります。
一般的に認知症をアルツハイマーと同義と認識をされている方が多いですが、診断により症状や適切なケアに違いますから、区別せねばなりません。
認知症の原因となりえる病気の一覧
■中枢神経変性疾患 アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン舞踏病など
■脳血管性認知症 脳梗塞(塞栓または血栓)、脳出血など
■脳腫瘍 原発性脳腫瘍、転移性脳腫瘍、髄膜癌腫症
■正常圧水頭症
■頭部外傷 脳挫傷、外傷性脳内出血、慢性硬膜下血腫など
■無酸素・低酸素脳症
■感染性疾患 急性ウイルス性脳炎(単純ヘルペス、日本脳炎など)、HIV感染症(AIDS)、髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、進行麻痺、クロイツフェルト・ヤコブ病、神経梅毒、脳寄生虫
■臓器不全関連 腎不全、肝不全、慢性心不全、慢性呼吸不全
■内分泌疾患 甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症、副腎皮質機能低下症、クッシング症候群など
■栄養障害 ウェルニッケ脳症、ビタミンB12欠乏症、ペラグラ脳症など
■中毒性疾患 薬物中毒(抗癌剤の一部、向精神薬、抗うつ薬、抗菌薬など)、アルコール、一酸化炭素中毒、金属中毒(水銀、マンガン、鉛など)
■その他 糖尿病、稀な蓄積病、ミトコンドリア脳筋症、Fahr病など
アルツハイマー型認知症
認知症の原因として最も多いものです。
認知症患者さんの過半数はアルツハイマー型認知症が原因と考えられています。
男性よりも女性に多いようです。脳の神経細胞の萎縮と老人斑と呼ばれる神経細胞の変性を特徴とします。アミロイドβというタンパク質がたまって神経細胞が減ってしまいます。
頭部CTやMRIでは、特に側頭葉の萎縮が目立ちます。
脳血管性認知症
脳の血管病変(主に多発性の小さな脳梗塞)が生じてしまった結果、神経細胞や神経線維の機能が障害されて働きが悪くなり、発症する認知症の総称です。
1箇所だけの梗塞では認知症は起こりにくいのですが、梗塞が小さくても脳のあちこちに多発すると認知症が出現します。
女性よりも男性に多いようです。我が国では以前は脳血管性の認知症が多いとされていましたが、最近はその割合が減少する傾向にあります。
脳の血管に新たな病変が出現するたびに、症状が段階的に進行することが多いようです。記憶障害の他に、早いうちから言語障害や歩行障害を伴いやすいようです。
混合型認知症
アルツハイマー型と脳血管性認知症を併発してしまう場合があります。このようなタイプは、混合型認知症と分類されます。
レビー小体型認知症
脳細胞にレビー小体という異常な物質がたまることが原因で、脳の神経細胞が減少して発症する認知症です。
認知症全体の15-20%とされています。
アルツハイマー型認知症とは少し症状が異なり、幻視やパーキンソン症状などを伴うのが特徴とされます。
パーキンソン病で見られるレビー小体が脳内に認められます。
前頭側頭型認知症
前頭葉や側頭葉を中心とした脳の萎縮が特徴的とされます。かつては「ピック病」と呼ばれていました。
脳の前頭葉は思考や感情の制御に関係し、側頭部は記憶に関係します。
発症年齢は比較的若く、また初期から性格変化を来すことが知られています。怒りっぽくなる、頑固になるなど性格変化が目立ち、また万引や性的逸脱行動、暴力など社会性の欠如が現れやすいと言われています。
その他の認知症
慢性硬膜下血腫
高齢者の軽度の頭部外傷から2-3週間以上経過して、頭蓋内の脳の表面に血液が溜まるようになって生じる認知症です。
脳を圧迫するので、体の一部の麻痺や物忘れなどの症状が出ることがあります。早いうちに溜まった血液を取り除く治療をすれば、症状が劇的に改善します。
診断には脳のCTやMRI検査が必要です。
正常圧水頭症
脳室や脳の周囲に存在する脳脊髄液の流れが悪くなった結果として現れる認知症です。
歩行障害(小刻み歩行)と物忘れが主な症状ですが、進行すると失禁を伴いやすくなります。溜まり過ぎた脳脊髄液を別のところ(お腹の中など)に出す装置を埋め込む治療(シャント手術)をすれば、症状が良くなります。 診断には脳のMRI検査や脳脊髄液の検査などが必要です。
脳腫瘍
脳腫瘍によって認知症様の症状が出ることがあります。
脳から発生した腫瘍(原発性脳腫瘍)だけでなく、他の臓器から脳へ転移した腫瘍(転移性脳腫瘍)が原因となることもあります。
脳代謝性認知症
内科的な疾患が脳に悪影響を及ぼして、認知機能の低下をもたらすものです。代表的な疾患としては、肝障害による肝性脳症、腎不全による尿毒症性脳症、ビタミン不足で起こるウェルニッケ脳症、甲状腺ホルモン低下による甲状腺機能低下症などがあります。血液検査が診断の手がかりになります。
甲状腺ホルモンは、新陳代謝の中心的な働きをするホルモンです。甲状腺ホルモンが足りなくなると、全身倦怠感、気力低下、体のむくみなどが出現します。物忘れを伴うこともありますが、甲状腺ホルモンの薬を内服することにより、症状は改善します。
感染性疾患による認知症
中枢神経系の梅毒、ウイルス性脳炎の後遺症、エイズ、クロイツフェルドヤコブ病などは、認知症の稀な原因となりえます。