手術で治る可能性のある認知症
正常圧水頭症
脳脊髄液が過剰に溜まり、脳を圧迫して障害を起こす病気です。脳脊髄液は、脳を保護し、栄養を与えるために必要な液体です。頭の中では、毎日500ml程度の脳脊髄液が作られ、頭の中を巡り吸収されています。脳脊髄液の吸収が悪くなって頭蓋内に過剰に溜まってしまった状態が水頭症です。
認知症のうち、5~10%を占めるという報告もあり、決して稀ではありません。
水頭症にも幾つかの原因がありますが、高齢者に多く、原因が不明の髄液吸収障害による水頭症を特発性性常圧水頭症と呼びます。
正常圧水頭症の主な症状は歩行障害、認知症、尿失禁です。尿失禁はかなり後になって出てくる症状です。
正常圧水頭症に対する唯一の有効な治療は、手術になります。たまっている脳脊髄液を頭蓋外へ出す手術(シャント手術)を受けることで、症状改善が期待できます。ただし、術前には診断が正しいかよく調べてもらう必要があります。術後に症状が改善しない症例の大部分は恐らく診断に誤りがあるものと考えます。
診断に有用な情報は、症状が上記の水頭症に合致していること、脳脊髄液排除試験による症状改善の有無、CT/MRIで脳室拡大があること(脳委縮とは異なるものであること)、また、脳槽シンチ検査で脳脊髄液の流れが悪いことなどです。
慢性硬膜下血腫
頭蓋内の脳の外側に慢性的に血液成分が出て溜まった状態です。血液量が多くなると脳を圧迫して症状が出るようになります。
高齢者に多く、通常は、軽微な頭部外傷を契機として、それから10日以上経過して徐々に出てきます。2週間~3か月して症状が出てくるようになります。主な症状は片麻痺ですが、認知機能低下やボーっとした状態、頭痛などが見られることも少なくなく、放っておくと意識障害が生じます。
CT検査を行うことで容易に診断可能です。
無症状の小さなものであれば薬の内服で治癒することもありますが、大きなものや既に症状を伴っているものの場合には手術(穿頭血腫除去術)が必要です。手術は局所麻酔で行うことのできる比較的容易なものです。
脳腫瘍による認知症
脳腫瘍の患者さんが、認知症のような症状のため病院を受診されることがあります。通常、数週間~数か月前から急に認知症の症状が出てきたというケースが多くあります。
脳腫瘍による認知症のような症状は多くありませんし、認知症の患者さんの中で脳腫瘍が占める割合も多くありませんが、MRIやCTを行えばすぐに確認できますので、認知症の患者さんでは脳腫瘍の有無を確認しておいた方がいいと言えるでしょう。
認知症を伴う脳腫瘍に対する治療方針は、腫瘍の性質により大きく異なります。ただ、どのタイプの脳腫瘍であれ、摘出を目的として、或いは診断のみを目的として、一度は手術を受けることになると思われます。良性で、すべて取り切れれば追加治療はしなくて済みますが、悪性の場合には放射線治療や化学療法が必要になってくるケースが多いと思われます。
認知症の経過や生命予後についても、脳腫瘍のタイプが良性なのか悪性なのかによって大幅に異なります。