貨幣状頭痛
国際頭痛分類 4.8
特徴は
貨幣状頭痛(Nummular headache)は、頭皮の限局した狭い範囲に慢性的な痛みを生じる一次性頭痛であり、以下のような特徴を有します。
① くっきりとした輪郭を持つ。
② 大きさと形が一定。
③ 円形または楕円形
④ 直径が1~6㎝
発症部位・性状・患者背景
頭頂部に多く出現(約4割)しますが、後頭部、側頭部、前頭部など、頭皮のどの部位にも発症しうるとされています。
痛みの強度は、一般に軽度~中等度とされますが、一部では重度の痛みを訴える例も報告されています。また、疼痛部位の皮膚に感覚異常(鈍麻、異常感覚、圧痛など)を伴うことがしばしばあります。
大きさは4cm程度、部位は1か所ですが、2か所以上のケースも1割前後あるようです。
40〜50代の女性に多い傾向(女性:男性=1.6:1)があることが複数の報告から示唆されています(Shengyuan 2013, Garcia-Iglesias 2021)。
年間発症率は0.03%程度とされます。
持続時間・患者背景
疼痛の持続時間は多様で、持続的または間欠的に現れます。Garcia-Iglesiasら(2023)は、約75%の症例で3か月以上続く慢性経過である一方、数秒〜数分、数時間、数日程度の短期間で経過する例も存在すると報告しています。
病態の理解と鑑別
この頭痛は、三叉神経または大後頭神経などの感覚神経の末梢終末領域に限局した神経障害性疼痛の一型とする見解がある一方で、中枢性感作や皮質可塑性の変化によるものとする説も提唱されています(Shengyuan 2013)。
診断においては、疼痛部位に一致した局所病変(例:皮膚疾患、骨病変、腫瘤など)が存在しないことが前提となります。
Garcia-Iglesiasら(2021)は、以下のような二次性貨幣状頭痛の鑑別を挙げています:
◇ 頭蓋内(クモ膜嚢胞、鞍上部腫瘍、髄膜腫、海綿状血管腫、下垂体腺腫)
◇ 頭蓋骨(骨内血管腫、骨腫瘍、頭蓋縫合早期癒合症、骨肥厚症、肉芽腫、転移性腫瘍)
◇ 皮下組織(好酸球性肉芽腫、皮下動脈瘤、皮下血腫、皮下嚢胞、扁平上皮癌)
したがって、画像検査や皮膚科的評価も必要に応じて考慮されます。
治療は
治療に関しては、有効性が確立された標準治療は存在しないものの、一般の鎮痛剤(NSAIDs:インドメタシンなど)や抗てんかん薬であるガバペンチンや、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)などが有用との報告があります。
その他、ノイロトロピン、プレガバリン、トリプタン(片頭痛の鎮痛薬)、各種抗てんかん薬(ラモトリギン、トピラマート、カルバマゼピン、バルプロ酸など)などの報告もありますが、効果は一定しません。
また、海外ではボツリヌス毒素注射が有効であった症例報告もあり、難治例に対する選択肢の一つとして検討されることがあります(Garcia-Iglesias 2023)。
最終編集日:2025年7月13日