認知症予防のためにできること
- 2023年1月8日
日本人の寿命が延びるに伴い、認知症の方が多くなってきました。
当クリニックでも、自分が認知症ではないかと心配し、もしくは自覚はないのに異変を感じた家族に連れられて受診される方がとても多いものです。
このページには、一般の方が認知症予防もしくは、認知症の進行予防のために行うべきいくつかの習慣を載せております。
運動
運動習慣は、認知機能低下の予防のために最も大切と言えます。
複数の長期の疫学研究論文により、身体活動・運動が認知機能低下に対して抑制的に働くと報告されています。
運動は、認知症のリスク因子でもある高血圧、肥満、うつの予防にも繋がります。
運動としては、週3回以上、1日30分以上の運動を心掛けることが良いでしょう。
運動の内容としては何でも良く、歩くことから、ジョギング、サイクリング、スイミング、テニスやゴルフ、フィットネスクラブといった運動のほか、ダンスや体操など、そして、家の掃除や洗濯などで体を動かすことも一種の運動と言えます。
社会的活動
社会的孤立が認知症の一因であることが分かっています。
退職後、家でゴロゴロして人づきあいがなくなってしまい、数年経ってから、認知機能が低下してきたとのことで受診される方は少なくありません。
社会的活動には、様々な形での人との交流が含まれます。仕事はもちろんのこと、地域の集会や、同好会、食事会、テニスやバレーボールなどのスポーツクラブ、社交ダンス、高齢者においてはデイケアやデイサービスなども社会的活動に含まれます。なお、仕事において、一人で行動することが殆どで、人との接触に乏しい場合には、社会的活動にはなりません。
その他、先述の「運動習慣」との絡みの面からは、個人で運動するよりも、集団で運動を行った方が、認知症になりづらいというデータが出ています。つまり一人でジョギングを行うよりも、仲間とジョギングをした方がいいですし、単独で行うスポーツ(筋トレ、サイクリングなど)よりも、集団競技(テニス、バレーボール、サッカーなど)の方がいいと言えます。
脳を使う
筋肉を使わないでいると、毎日筋肉が衰えていきます。
脳も同様であり、使わないと衰えやすくなります。
これは今更変えられないことですが、若いころの中等教育を十分に受けていないと、認知症になりやすいことが分かっています。
大人になってからでも遅くはありません。読書やクロスワードパズル、楽器の演奏、囲碁やチェスなどを日頃から行う人は、そういうことを全くしない人と比較して認知症になるリスクが低いようです。
仕事で頭を使うことも大切です。特に、常に新しいアイデアを考えている人、想像力に溢れたクリエイティブな活動をしている人は、認知症になりにくいといえます。一方、仕事の内容がマンネリになっている人は、より認知症になりやすい可能性があります。
更に、最近では、運動と組み合わせたデュアルタスクに効果があると言われています。つまり、例えば運動するにしても、単に運動を行うのではなく、頭のトレーニング(認知課題)を組み合わせた運動を行うことが推奨されています。頭のトレーニングとして計算やしりとりなどをしながら散歩やジョギングを行ってもいいでしょう。
デュアルタスクの例:
・ウォーキングをしながら足し算(引き算)を行う。
・筋力トレーニングを行いながら“しりとり”を行う。
・「3の倍数」の時に手をたたくや、「4の倍数」の時に足踏みをする、またはそうしたものの組み合わせ。
食生活の改善
個々の栄養素や食品と、認知機能との関連についてはまだ明らかではない面も少なくありません。
しかし、カロリーの過剰摂取や塩分の過剰摂取、また糖質・トランス脂肪酸・飽和脂肪酸(後で説明します)の過剰摂取は肥満や生活習慣病を通じて認知症になりやすくなるかもしれません。また、一部の栄養素の不足が認知症のリスクを高める可能性があります。
多くの日本人の普通の食生活では、カロリー摂取量は十分といえます(むしろ過剰摂取かもしれません)。ただ、栄養バランスには偏りがある可能性があります。
カロリーの過剰摂取と栄養素の偏り
食事が米やパン、麺類と揚げ物や肉にかたより(市販の弁当などにありがちな組み合わせ)、間食にはビスケットやケーキなどの洋菓子、あんこなどの和菓子、スナック菓子、ジュース類を多く摂っていると、糖質、脂質が過剰になっている一方、ビタミンやミネラルが不足している可能性があります。牛や豚肉に含まれる脂身も質の悪い脂質に含まれ、好ましくありません。
糖質や質の悪い脂質の過剰摂取は、生活習慣病やメタボリックシンドロームの原因となります。高血圧症、糖尿病などの生活習慣病、そして肥満は認知症の危険因子です。また、こうした生活習慣病は脳卒中の重大な危険因子であり、脳卒中から認知症に至る場合もあります(脳血管性認知症)。
糖質とGI値
糖質は、全摂取カロリーの50~60%程度が適切とされています。また、糖質の過剰摂取により、血糖値をコントロールする膵臓のインスリン細胞が疲弊し、糖尿病になりやすくなります。
体の糖化を防ぐためには、GI値(血糖の上がりやすさ)を参考にして、GI値の低い食品(食後に急激な高血糖にならない食事)を選ぶといいでしょう。GI値の低い食べ物については、ここでは割愛させていただきますが、いろいろなところに載っているので参考にしてみてください。
食事と脂質
上記のような食生活に偏っていると、トランス脂肪酸や飽和脂肪酸が多くなり、脂質異常症(高コレステロール血症など)の原因になります。
トランス脂肪酸は、食べるのを避けるべき食品とされています。人工の脂肪酸であり、加工食品に含まれることが多いです。例えばケーキやクリーム、スナック菓子、ハンバーガーやフライドポテト、ピザ、菓子パン類、カップ麺、マーガリンなどに含まれます。
飽和脂肪酸は、一言でいうと「肉の脂身」です。豚バラなどは見た目にも多く脂身を含みますが、わかりやすく言うとその”肉の脂身”に多く含まれるのが飽和脂肪酸です。脂身を多く含む肉を避け、または肉の脂身の部分はなるべく避けるとよいでしょう。飽和脂肪酸は、バターやチーズなどの乳製品にも含まれます。一方、良質な動物性たんぱく質を摂取するのにお勧めの肉は、鶏の胸肉やささみ肉、豚や牛ではもも肉になります。
認知症になりにくい栄養素
認知症予防に大切、かつ、不足しがちな栄養素として、ビタミンとミネラル、フィトケミカルが挙げられます。ビタミン(ビタミンB群、C、Eなど)やミネラルを多く摂るように心がけましょう。具体的には、魚、野菜、豆類(ナッツ類)などを多くとるようにすると良いでしょう。
ビタミン
野菜には、各種のビタミンが多く含まれます。特定の野菜に偏るのではなく、葉物から、緑黄色野菜まで、まんべんなく摂取することをお勧めします。
ビタミンBには、ビタミンB1、2、6、12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンなどがあります。脳神経の活動には、特にビタミンBが重要です。ビタミンB1は豚肉や穀類に、ビタミンB2はレバーやハツなどに、ビタミンB6はにんにく、肉類、魚類に、ビタミンB12は貝類、魚卵、レバーなどに多く含まれます。
ビタミンC、Eは抗酸化作用を持つ物質として知られています。ビタミンCを多く含む食品として、ブロッコリー、パプリカ、ピーマン、キャベツ、カボチャ、キウイ、みかん、いちごなどが、ビタミンEを多く含む食品として、アーモンド、ナッツ、カボチャ、ウナギ、アボガド、たらこ、カジキマグロなどが挙げられます。
ビタミンA、Dについても認知症リスクを抑えるという研究もありますが、摂り過ぎはよくありません。
抗酸化物質
「フリーラジカル」と呼ばれる活性酸素は脳細胞に損傷を与え、動脈硬化や認知症の一因となる可能性があります。抗酸化作用を持つ物質(抗酸化物質)を積極的に摂るのもよいでしょう。代表的な抗酸化物質として、前述のビタミン(ビタミンC・E)やフィトケミカルが挙げられます。
フィトケミカルは1万種類以ほどあるそうですが、抗酸化作用のあるフィトケミカルとして、ポリフェノール類のアントシアニン(ブルーベリー、ラズベリー、ナス、赤しそ、赤ワインなど)、フラボノイド(大豆製品)、カテキン(緑茶、紅茶)、フェルラ酸(玄米)、また、カロテノイド類のアスタキサンチン酸(鮭)、リコピン(トマトなど)が挙げられます。
カレーに使われるスパイス”ターメリック”に含まれるクルクミンには強い抗酸化作用があることが知られていますが、カレーそのものはコレステロール値を上げる可能性があるので、食べ過ぎはよろしくありません。
ちなみに、緑茶に含まれる「テアニン」はアミノ酸の一種ですが、テアニンにも認知症予防効果があるという報告があります。
必須脂肪酸
必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸は、動脈硬化を防ぎ、認知症のリスクを軽減する可能性があります。オメガ3脂肪酸は、海洋性オメガ3脂肪酸と植物性オメガ3脂肪酸に分けられ、前者は青魚(マグロ、イワシ、サバ、アジ、サンマ、鮭など)に多く含まれます。後者としてはα-リノレン酸(ALA)があり、くるみ、亜麻仁油やエゴマ油、シソ油などに多く含まれます。
カフェイン
コーヒーや緑茶など、カフェインを多く摂取する人では、認知症の発症リスクが低いという報告があります。カフェインには、アルツハイマー病の原因物質と見なされているアミロイドβの産生抑制・除去促進効果、抗酸化作用、神経保護作用などが報告されています。
アルコール
多量の飲酒は認知症のリスクであることが分かっています。少量の飲酒は健康に必ずしも悪影響とは限りませんが、認知症予防という観点からはお勧めできません。過度の飲酒は避けましょう。
なお、赤ワインにはポリフェノールが含まれ、認知症に対してはいい効果もあります。ただし、それでも飲み過ぎはよくありません。日本人に適量の赤ワインは、グラスで1~2杯と理解しておくのがいいでしょう。
睡眠
慢性的な睡眠不足や寝過ぎも認知機能低下につながる可能性があります。
アルツハイマー型認知症は、神経細胞から放出されたアミロイドβが脳に蓄積されることで発症することがわかっています。アミロイドβは、睡眠中に脳の外に除去されることがわかりました。良質な睡眠は、アミロイドβを除去するためにも必要です。一方、不眠が続くとアミロイドβが除去されにくくなり、脳内に蓄積されてしまいます。
最適な睡眠時間は1日あたり7~8時間程度です。せめて、普段から1日6~9時間程度の睡眠時間を確保することを心掛けましょう。
その他
中年期の聴力低下、喫煙、うつ、高血圧、糖尿病などは、認知症のリスクとして知られています。
補足:サプリ
当院では、認知症予防学会が認定しているサプリを置いています。
〇 フェルガード : 米ぬかから抽出されたフェルラ酸を主成分とするサプリです。
〇 オキシカット : ビタミンC、アミノ酸などの8種類の有効成分を配合した抗酸化配合剤です。
※ サプリは飽くまで医薬品とは異なり、認知症の予防や進行抑制のために、「効果があるかもしれない」というものです。
より詳しく勉強したい方は、併せてこちらをご覧ください。
認知症のリスク因子(はしぐち脳神経クリニック 脳ペディア)