当院では、頭痛やめまいの患者さんはとても多いのですが、その中の一部にはストレス性の方やうつを併発されている方も少なくありません。また、不眠や心因性の身体の不調、痺れなどの患者さんも少なくありません。
心療内科・精神科的な内容かもしれませんが・・・
人として生きる上で最も大切なことに、「心の健康(メンタルヘルス)」が挙げられます。
体の健康も大切ですが、人間は必ず体の病気になりますし、いつかは死ぬものです。ですので、体の健康は永遠のものではありません。しかし、心の健康は、体が病気になろうとも、死ぬ間際まで保つこともできるものです。
なお、社会的に成功している人、収入が多い人でも、メンタル的に幸福とは限りません。
幸せの土台となる鍵は、メンタルヘルス、そして自分を取り囲む人間(生物)関係が満ち足りているかどうかです。
※ 生物には、ペットや植物なども含まれます。
Killingsworth MA et. al., PNAS, 2023
Frank RH, Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class, 2007
樺沢紫苑「精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法」 2021
心の健康を保つための重要な考え方に、マインドフルネスがあります。本日は、マインドフルネスについて私なりに解説します。
マインドフルネス(mindfulness)とは、「今、自分とその周りを取り巻く事象」に意識が向いている心理的な状態を意味します。
一言で表すと、「”いま”・”ここ”に目を向ける」ということです。
補足すると、自分を取り巻く環境に対して、一切の評価をせずに捕らわれのない状態で、ただ眺めることになります。
マインドフルネスの由来
マインドフルネスはもともと仏教的な瞑想に由来し、東洋では3000年の歴史があるとされます。
20世紀後半になり、アメリカで仏教的な瞑想や禅の精神から派生して、医療行為としてのマインドフルネス低減法(MBSR)へと発展しました。
当時はさほど注目されませんでしたが、2000年代に入るとアメリカで東洋の思想実践への興味が高まり、現代社会に欠けている「今への集中」に焦点を当てた「マインドフルネス瞑想」が、心理的・身体的健康や良好な人間関係、冷静な意思決定、仕事や学業への集中、全般的な生活の向上などに効果があるとして注目されるようになり、GoogleやApple、Microsoft、Intel、Fordといった名だたる米国の企業でも取り入れられています。
日本では、2016年にNHKでストレスの対処技法として特集が放送されるなど、近年メディアで取り上げられる機会が増えています。マインドフルネスの最近の歴史については、NHKテレビでも取り上げられています。
https://www.youtube.com/watch?v=36ci7kS_0UY&list=WL&index=14
マインドフルネスな状態とは
マインドフルネスを直訳すると、「意識が向いていること」です。
そこから波及して、よく言われるマインドフルネスな状態とは、「今、自分を取り巻いている環境に対して意識が向いている状態」と言えます。
もっと簡単に言うと、「いま、ここを感じる」ことです。
マインドフルネスの効果
1.雑念から解放され、自分の目の前のことに集中できるようになる《集中力の向上》。
2.未来や過去、妄想に対するストレスや不安な気持ちを抑えられる《不安の解消》。
3.困難なこと、辛いことに直面しても、感情に流されず、冷静に判断を下すことができるようになる《自己統制力の向上》。
結果として、明るい心になり、脳が疲れづらくなり、集中力や記憶力が上がり、メンタルが安定して、睡眠の質も向上します。また、自己肯定感が高まり、幸福度が上がるとされています。
マインドフルネスと脳
マインドフルネスな心でいることで、脳の感情の中枢である偏桃体の過剰な活動を抑える一方、脳の理性の中枢である前頭前野の稼働が活発化するという報告があります。前頭前野は、集中力、記憶力、論理的思考力、感情コントロール、コミュニケーション力、やる気などに関係します。
マインドフルネスでは、判断を加えず(non-judgmental)、現在の瞬間を中心に置いた(present-centered)気付きが重要です。
意識の向かう先
私たちの意識の向く先は時間軸と空間軸に分けて考えることができます。時間軸としては、「今」、「未来」、「過去」があり、空間軸としては、自分の「目の前(ここ)」かそれ以外(つまり「自分と離れたところ」や「空想の世界」)になります。
意識を過去へ向ける
過去のいろいろな出来事を振り返り、楽しかった、と思い出したり、辛かった、なんでこんなことしてしまったんだろうと後悔する。
「今日は忙しかった。」
「仕事でミスをしてしまった。」
過去の自分を思い出して落ち込むこともあるでしょう。
意識を未来へ向ける
将来に対する期待や不安を想像する。
「明日、プレゼンテーションうまくできるだろうか。」
「商談が失敗に終わったらどうしよう。」
など。
意識を空想の世界に向ける
「ディズニーランドに行っている自分を想像する。」
「大好きな彼女は今頃何をしているんだろう。」と心配になる。
意識を現在、目の前に向ける
今の自分とその周囲にある状態に意識が向いている状態です。これは、マインドフルな状態を指します。
・目の前に広がる自然や風景に見とれる。
・食事やビール、コーヒーの味や香りを楽しんでいる。
・涼して澄み切った空気やそよ風を心地よいと感じる。
・普段意識しない呼吸に意識を向けることもこの一部です。
反対の言葉に、「心ここに非ず」という言葉があります。意識が目の前に向いておらず、妄想にとらわれている状態ですね。「上の空(うわのそら)」という言葉も同じような意味合いで用いられる言葉です。
有名な洋画のタイトルではありませんが、「今を生きる」ことが重要なのです。
「今」以外の「未来」「過去」「空想」は全て雑念であり、雑念が浮かんでは消えを繰り返していると脳が疲労する原因となります。心配事が頭をめぐっている状態は、マインドフルネスとは対極の状態になります。
心配事があっても、心配事で脳を占拠されないようにしなければなりません。
自動思考・ぐるぐる思考・反芻思考
状況に対応して、自分の意図とは関係なく次から次へと自動的に湧き出る思考を、「自動思考」といいます。自動思考は必ずしもネガティブなことばかりではありませんが、心配や不安がを抱えている方では自動思考はネガティブな方向に走りがちです。
彼氏や彼女にLINEしたところ、いつものようにすぐに返事が来ないと、「何かトラブルがあったのだろうか」「避けられているのではないだろうか」などとネガティブな発想に陥ります。それが頭の中を占拠してグルグル回ります。
ぐるぐる思考とは、ネガティブな出来事を繰り返し思い出して悩んでしまう考え方のことです。
ネガティブな出来事を何度も思い返しては落ち込むという行為が反芻動物の「反芻」に似ているため、「反芻思考」と呼ばれるようになりました。
「反芻」の由来
「反芻」という言葉の由来は、反芻類の動物(牛、羊、山羊、鹿、キリンなど)が行う行動で、一度飲みこんだ食物を再び口中にもどし、よくかんでからまた飲みこむことです。それが転じて、繰り返し考え味わうという意味を持つようになりました。
ぐるぐる思考や反芻思考は、うつ病などの精神疾患を引き起こす一因となりえます。
ぐるぐる思考(反芻思考)の対策
ぐるぐる思考(反芻思考)に陥っていると感じた場合に自分でできる対策があります。
気をそらす
ぐるぐる思考に陥ったら、一旦自分の好きなことを行って、気を逸らしましょう。ゲーム、読書、テレビ、映画など、何でも結構です。
身体を動かす
適度な運動を行うと、反芻思考が改善しやすいことが研究で分かっています。
ウォーキングやランニングのように一人で行う運動もよいですが、チームスポーツをするとなおさら良いと思います。
自然を感じられる場所でゆっくりする
自然環境の中で散歩したり、ゆっくりとすることによって反芻思考の回数が減ることが報告されています。
マインドフルネス
マインドフルネスは、ぐるぐる思考・反芻思考を減らすのに有効であるとされています。
「することモード(doing mode)と「あることモード(being mode)」
マインドフルネス認知療法(MBCT)のシーガル、ウィリアムズ、ティーズデールによると、意識には「することモード(doing mode)」と「あることモード(being mode)」の2つのモードがあります 。
することモードは実行を意識し、あることモードは観察を意識します。2つのモードは別々に作動するものであり、モードのスムーズな切り替えが大切です。
2つのモードに優劣はつけられないのですが、人は考え込むと、「することモード」に囚われてしまい、「あることモード」に切り替えできないようになりがちです。
することモード doing mode
自分の身の回りで生じたものごとや、自分の頭の中に浮かび上がった事柄に対して、反射的・自動的に分析・評価を行い、思考が繰り返される状態です。
「することモード」は、思考的、論理的な傾向があり、左脳的なモードとも言えます。
脳が検知した「問題」解決のために生じるものであり、人間が上手に生き延びていくためには必要なものと言えます。「問題」の原因はなにか、何が悪いのか、と考える論理的な思考過程が半自動的に繰り返されます。
仕事や課題に追われているときも「することモード(doing mode)」になりますし、悩みに囚われているときも「することモード」のスイッチが”オン”になります。多忙な現代人、ストレスの多い現代人は得てして「することモード」に傾きがちといえるでしょう。
このモードは人の脳の普段の状態でもあります。意図的にある思考に集中しているわけでもなく、とりとめもなく思考が頭をめぐっている状態は、近年では”デフォルトモードモードネットワーク(default mode network: DMN)”いう用語で知られています。人は、何も考えずにぼーっとしていても、このDMNが勝手に活動しています。
デフォルトモードネットワーク
脳科学研究で数年前から流行っている言葉です。脳が意識的な活動をしていないとき、つまり、
ぼんやりしているときに活性化する神経回路です。自動車の
「アイドリング状態」に例えられます。
ぼんやりしているときには、いろいろな雑念や思考がとりとめもなく出てきますが、この状態はDMNの活動によるものです。
一方、DMNが過剰に活動すると、過去への後悔や未来への不安などといったぐるぐる思考に陥るリスクがあります。
「することモード」は、望ましくない「問題」が起きた時にも作動します。
理想と現実の間のギャップを発見すると、そのギャップを埋めるべく、「問題」の解決のための思考が作動します。
「することモード」は、現実に起こっていることだけではなく、心の中の出来事にも「反応」します。脳が元からイメージと現実の区別が余り得意ではないため、思い浮かんだだけのことを「現実」として捉えて騒ぎ立てる傾向があります。
そして、「することモード」による思考の結果が本人の想定通りに進めばいいのですが、もし思考から得られた結果が「上手く行かなかった」時には、解決を求めてさらなる評価、分析を行うことになり、その過程が続くとネガティブな反芻思考に繋がりかねません。
思考の過程では、過去に経験した類似のネガティブな事例を思い出して、ネガティブな感情とネガティブな反芻思考が止まらなくなってしまいます。
「することモード」では、真面目な人間ほど悩みやすく、メンタルヘルスに支障をきたすリスクが高いと言えます。
また、未来への予期不安に対しても、同様のことが言えます。
将来に起こり得る「問題」を想定して、予め先手を打って被害を最小限に抑える、できれば「問題」そのものを発生させないように封じ込める。こうした「することモード」思考は、限度を超えない限りは必要です。
ところが、脳の作り出した仮想の「問題」は、想像力のある限り、際限なく見つけることができます。しかも、すぐに解決できる「問題」ではありません(そもそも、「問題」自体がまだ発生していないのですから)。従って、このような予期不安はぐるぐる思考・反芻思考のリスクという面からはさらにたちが悪いと言えます。
そもそも、それ以前に、将来に対する予防的な発想は本当に解決が必要な「問題」なのかどうか。頭の中で反芻していた「問題」が現実には生じなかった場合には逆に、「問題」だと捉えた「することモード」の思考そのものが問題であるとも言えます。
こうして、本来の問題を過大に評価して、余計な問題を発生させる可能性も十分にあります。
気にし過ぎると、思考という行為自体が、メンタルヘルス的な意味での大きなリスクを含んでいます。
あることモード being mode
思考する「することモード」に対して、「あることモード(being mode)」では、物事や自分自身の体の感覚・感性・感情に対して、分析・解釈・評価・判断せずに、あるがままの状態で受け入れる、ただ、あるがままを五感で感じるのみです。
意識が「いま・ここ」に向いている状態であり、物事に対する「気づき」「注意」が向いているだけの状態です。「することモード」とは異なり解決意識や目標を持ちません。ただひたすらに観察するのみです。
心の中の出来事に対してもひたすら観察するのみで、反応はしません。判断や解釈も加えません。
「あることモード」はまさにマインドフルネスに該当します。ある意味、右脳的な発想とも言えます。
右脳的な思考(being mode)と左脳的な思考(doing mode)の切り替え
人によって異なりますが、主に言語の脳は左脳です。その他、思考や判断などの論理的な思考には、主に左脳が関わっています。一方、空間の認識や感性には右脳が関わっています。右脳は、非言語的な思考に関わります。分かりやすい例えで言うと、「することモード」は左脳的であり、「あることモード」は右脳的です。
※ あくまで「右脳的な」です。実際の脳の活動は、シンプルに右脳と左脳に切り分けられるものではありません。
「することモード」の思考は言語的な思考であり、生物の中でも特に人間で発達したものと言えます。
人間は基本的に物事を判断し、「問題」として捉えられる事柄に対しては、これを解決をしようと思考するものです。「問題」が生じた時には、脳は自然と「することモード」に支配されやすいのです。
「明日は、何時に〇〇をしなくては・・・」
「明日のプレゼン、どのように乗り切れるだろうか。」
現代は、人類の歴史の中でも特にやることが多く、多忙を極めています。現代人は、テレビ、テレビゲーム、パソコン、ipad、スマホのせいで常に何かすることがあります。SNSやメール、テレビゲーム、携帯電話は人間を退屈にさせず、人間はこれらにかなりの時間を消費しています。車、電車、飛行機のお陰で、地球上のどこまででもいけます。これらがなかったらどれだけすることがなく、暇だったことでしょうか!想像してみて下さい。
現代人は、このような多忙な生活の中で、常に様々な不安や心配に駆られて、自動思考を繰り返しています。そのため、現代人の脳は「することモード」の左脳的な「思考」に囚われがちです。
しかし、こうした最低限必要な思考は、脳が「することモード」にならなくても、心臓が無意識に鼓動しているのと同じように、無意識のうちにも十分作動しています。また、現代のように忙しい世の中では、スケジュール管理や左脳的な「することモード」の思考はなるべくスマホやデジタル機器、AIに任せてしまうこともできるものです。人間は、思っている以上に、「あることモード」でも困らずに生活できるものです。
人間の、一番身近な幸せは、「あることモード」になっているときの五感から得られます。
例えば、食事は「あることモード」であるべき、最もわかりやすい例でしょう。
食事の際に、考え事を持ち込まずに、また、スマホやSNSから手を放して、「あることモード」に切り替えてみましょう。そして、小さな幸せというギフトを「いただきます」。
五感を研ぎ澄ませてみましょう(想像してみてください)。
レストランや、自宅の食卓に並べられた食器の上の食材を眺めて、何を思いますか?
食材を、少し口に含んでみましょう。舌触りを確かめて、ゆっくりと噛み締めながら、お口の中に広がる味を楽しみます。
食材が咀嚼されていくのを、次第にお腹が満たされていくのを、感じて下さい。
食事の例のように、日常生活の中にも、五感で感じることのできる小さな楽しみはたくさんあるのに、私たちの頭は忙しく考えを巡らせているうちに「することモード」から「あることモード」への切り替えを怠り、五感への注意をおろそかにしていることがいかに多いことか、思い知らされます。
「することモード」に支配された脳を開放し、「あることモード」に引き戻しましょう。ただし、それは意外にも簡単なものではなく、そのための一定のトレーニングが必要です。そのキーワードは「マインドフルネス瞑想」です。
マインドフルネス瞑想の元となる発想は、「することモード」のオンオフをきちんと切り替える、また、不要なことに対して「することモード」をオンにしないよう、「あることモード」を訓練することでバランスをとっていこうとする試みです。
自己の思考や感情を客観的に眺める
自分の思考や感情を客観的に見る視線も大切です。
イライラしているときには、「イライラする!」ではなく、「今、私はイライラしているんだね。」
怒っているときには、「腹が立つ!」ではなく、「私は、○○に対して腹が立っているんだね。」って意識することで、気持ちが楽になる面もあります。
「イライラする!」は自分の判断であり、「することモード」に近いのですが、「今、私はイライラしているんだね。」は判断の加わらない、「あることモード」に近いのです。
イライラしている、と思った時には、イライラしている「私がいる」と付け加えてみてください。
マインドフルネス瞑想=マインドフルになるためのトレーニング
マインドフルネスとは、いま、ここにある自分と自分を取り巻く周囲の状態を、客観的かつリアルタイムに意識していることです。
マインドフルネス瞑想という言葉があります。いろいろなやり方がありますが、主に、自分の呼吸を意識して、呼吸を感じる瞑想法です。また、手足の感覚に意識を向けることもあります。広い意味では、その他の五感に目を向けるような瞑想法もあります。
マインドフルネス=瞑想ではありません。マインドフルネスは今ここに意識が向いている状態のことを指す言葉であり、マインドフルネス瞑想は、そのための手段としての瞑想のことを指します。
Googleの会社でも取り入れられているとの話や、Appleの創業者であるSteve Jobsが行っていたという話もあります。
マインドフル瞑想の方法は簡単!
マインドフルネス瞑想は、「今、ここ」で起こっている物事に注意を向ける能力を発達させるプロセスと考えるとわかりやすいと思います。
臨床的にデザインされた世俗的なマインドフルネスでは、non-judgmental(判断を加えない)、present-centered(現在の瞬間を中心に置く)の2つが特に重要です。
マインドフルネス瞑想にはいろいろな方法があります。
最も代表的な方法は、呼吸に意識を向ける方法です。目を閉じて、息が入ったり出たりする時の感覚に注意を向けます。意識を向ける対象は、鼻の中を通る空気の感覚、もしくは胸やお腹の動きの動きです。呼吸をコントロールしようとせず、自然な呼吸のプロセスやリズムにただ気づいていることに意識を向けます。慣れないうちは、途中で意識が思考や連想へと流れ移ってしまいがちです。その場合にも、注意が逸れていることを受動的に気づき、判断をせずにその事実を受容して、注意を呼吸へ戻しましょう。
他の瞑想エクササイズとしては、体の様々な場所に注意を向けて、その時に起こっている身体の感覚に気づくというボディスキャン瞑想があります。ヨガで、動きや体の感覚に注意を向ける、歩く瞑想(ウォーキング・メディテーション)、今起こっている音、感覚、思考、感情、動作などに注意を向けることも、マインドフル瞑想の一種です。
判断や分析はしない。
思考や分析が沸いてきたら、客観的に観察する。思考や分析に引き込まれそうになった場合には、
① 今、目の前のことから気がそれて、〇〇に気を取られそうになった自分がいるんだな、と客観的に受け止める。
② そのことは今は横において、五感に集中することに戻る。
例:コーヒーに関するマインドフルネス
目の前にある珈琲と珈琲の入った器をただ観察する(視覚)。
珈琲の豊かな香りを感じる(嗅覚)。
珈琲カップに触れて、その感触や温度、重たさを感じる(触覚)。
珈琲を口に含んで、熱さを感じ、味を感じる(味覚)。
珈琲が喉を通ったときの音を聞いて(聴覚)、喉を通る珈琲の感覚を感じ(触覚)、珈琲が喉を通るのに意識を向ける。
視覚をケアするマインドフルネス
実況中継「きれいな夕日がきれいだな。」「美しい川の流れです。」「素敵な絵が飾っています。」
花見、夜景、美術館、朝日、夕日・・・。
動きがあるものをただ眺めていると、意外と飽きないものです。
嗅覚
シャンプー、柔軟剤の香り、アロマなど。
触覚
肌触りの気持ちいものを触る。ひんやりするもの、温かいものを触る。水やお湯に触れる。土いじりをする。そよ風を感じる。
座っている椅子や床、ソファーの感触。
味覚
美味しいものを美味しいと感じる。甘い、辛い、苦い、酸っぱい・・・ただ味わう。
お椀や箸が口に触れる感覚、食事の食感、口の中に広がる味を楽しむ。噛み応えや、味の変化を感じる。
聴覚
一つの音に意識を向ける。
周囲の音。鳥のさえずり、虫が鳴く音、川や水の音、音楽。風の音、エアコンや電気機器の音。雨音。
テレビの音や人の声などは避ける。その内容に意識が向いてしまう。
マインドフルネス瞑想でなくても、マインドフルネス食事、マインドフルネス散歩、マインドフルネス食器洗い、マインドフルネストイレ、マインドフルネス入浴、マインドフルネス旅行、なんでもいいのです。その時にしていることに、五感を使って集中しましょう。
マインドフルネス散歩
代表的なマインドフルネスに、マインドフルネス散歩があります。歩いているときに動く足に意識を向けましょう。足の裏の感覚や、かかとの衝撃、膝や手の動きに意識を向けましょう。肌で感じる風や空気を意識してみましょう。
ヨガやピクニック、森林浴などもマインドフルネスで溢れています。
本来の”子供心”はマインドフル
子供は、基本的にマインドフルに満ちています。
空を見ては、いろいろな雲の形を不思議な気持ちで眺めて楽しむものでした。
歩道の地面の図柄や横断歩道の白線を見ては、それに沿って一歩一歩歩いて楽しんでいました。
虫や植物に見とれて、色や形に見とれていました。
子供たちも、マインドフルではなくなる時もあります。
過去に対するトラウマの例:
☒ 先生に叱られたのを思い出すと嫌な気持ちになります。
☒ 学校で友達と喧嘩した時には、辛い気持ちになります。
将来に対する不安の例:
☒ テストの点数が悪いと、親に怒られないか心配になります。
☒ 学校で発表を控えていると、不安な気持ちでいっぱいになります。
子供たちの不安や心配も、大人と同様に過去の辛い体験や将来の心配事に対するものです。ただ、その内容は、大人から見たらとても小さな悩みなのです。逆に言うと、子供たちは常にマインドフルなので、小さな悩みや不安でも、とても強く思い悩むものです。
大人の悩みは、もっと大きくて、持続的で、解決が困難なものが多いですよね。
☒ 仕事で大きなプロジェクトを任された。
☒ 管理職になり、負担が大きくなった。
☒ 職場での人間関係がつらい。
☒ 日々の生活費に困窮して、先々が心配。
☒ 家族(もしくは自分)が大病を患ってしまった。
子供の悩みと比較しても、簡単に解決できない、深い悩みです。悩みに囚われると、ドツボに嵌ってしまいます。
このような状況でも平常心でいるためには、常に少年のようなマインドフルな心を保つことを忘れないように、日頃から意識的にトレーニングをすることが重要です。
「子供心」・・・とても大切です。
最も大切で、最も身近な幸せ・・・
幸せになるために・・・と幸せを追いかけている方はたくさんいます。
幸せを目指して・・・素敵な相手と結婚して、仕事で成功して、子供たちの成長に期待して、お金持ちになって・・・こうしたことを夢見て。有名人、資産家、ブランド物で身を固めている人に憧れて。
こうした財産や名誉を、地位財と呼びます。幸せの根源は、ドーパミンによるものです。
しかし実情は、こうした傍から見て成功している人たちが、みな幸せという訳でもないものです。
話が長くなるので、詳しくは解説しませんが、「幸福」の”基礎となる幸せ”は最も身近なところにあります。
身近な幸せの例は、スポーツにあります。
サーフィン、ロッククライミング、スカイダイビング・・・やや極端な例ですが、彼らは何故こうしたスポーツに挑むのでしょうか。きっと彼らから帰ってくる共通の答えは「楽しいから!」「気持ちいいから!」でしょう。
私たちにとってもっと身近なスポーツでも同じです。テニス、ゴルフ、サッカー、スノーボード・・・こうした競技に夢中になっている人たちは純粋に、そこに夢中になれる「楽しさ」を感じるからしているのです。
これは、スポーツに限ることではありません。
読書、音楽、映画、趣味の畑や植物栽培、ペット、家族との団らん・・・。
身近にある「健康」、「愛情」、自分を取り囲むモノたち、こうしたものへ夢中になっているときの幸せは、実は最も基本的で最も大切な幸せです。
こうした幸せ(非地位財、セロトニン的幸せとオキシトシン的幸せ)なくして、どのような幸せも成り立たないのです。
マインドフルネスは、あなたの身近にある小さな幸せを取り戻すための手法です。これは単に、「幸せな人生を送るための一つのツール」に過ぎません。
目の前のことにより深く夢中になれるために、そして身近な幸せにより多く気づくために、マインドフルネスを取り入れてみてはいかがでしょうか。