脳卒中の起こりやすい季節や時間帯はありますか
- 2021年1月31日
季節・気候と脳卒中の関係
昔から脳卒中は、寒い冬や暑い夏の時期に起こりやすいと考えられていました。つまり、極端な気候が体調や血圧に異変を起こし、そして脳血管が詰まったり、逆に破綻して出血したりすると認識されていました。
実際はどうなのでしょうか。
脳卒中のタイプにより発症しやすい季節が違う
脳卒中とは、脳の血管が破綻して生じる病気の総称であり、その中には主に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などが含まれます。
脳の血管が詰まって血流が悪くなって生じる病気が脳梗塞であり、逆に脳の血管が破れて生じるのが脳出血やくも膜下出血です。
血管が破れて生じる脳出血やくも膜下出血は高血圧と密接な関連があります。冬に多いとされます。
寒い冬場は、体から熱を逃さないように体内の血管が収縮して血圧が上昇し、血管が破れやすくなります。一方、夏場は著明に減少する傾向があります。
脳梗塞は、主に動脈硬化などのため、血管が細くなることが原因です。細くなった血管が何かの拍子に血流がさらに悪化し、脳細胞に届く血流(酸素や栄養)が不十分になると脳梗塞になります。
どんな拍子かというと、例えば単に経年的な動脈硬化の進行が原因のこともありますし、急な血流の変動などのため血栓の状態が変わったり剥がれて血流に乗って末梢の方で詰まったりすることもありえます。
その他、体内の水分量が不足して、細くなった血管がさらに細くなって生じることもあります。例えば、気温が上昇すると体温の上昇を防ぐために人は汗をかきますが、大量の汗をかくと体は脱水状態になります。また、脱水になると血管の中の水分量が不足して、血液がドロドロになって血のかたまり(血栓)ができやすくなります。
暑い夏の時期には脳梗塞が起こりやすいと考えられます。実際に国立循環器病センターの調査でも、脳梗塞は6~8月の夏に多く発症するというデータが発表されています。
脳梗塞には主に3つの代表的な病型があります。
脳の細い血管が詰まって生じるのがラクナ梗塞、心臓から脳へ血流を導く太い血管の血流障害によって生じるのがアテローム血栓性脳梗塞、そして心臓の中にできた血栓が脳に飛んで脳血管が詰まってしまうのが心源性脳塞栓です。
暑い時期には、脳卒中の中でもラクナ梗塞とアテローム血栓が多くなっています。 多汗や飲酒量増加による脱水などで血流が悪くなり、血栓ができやすくなるためです。
一方、心臓に負担のかかりやすい冬の時期には不整脈の発作が起こりやすいため、心源性脳塞栓が増える傾向にあるようです。
寒暖差と脳卒中の発症との関係
暑い日が続いている間、また寒い状態が続いている間は、むしろ体がその気候に順応しやすいため、血圧の変動は少ないと言えます。むしろ危険なのは、急に寒くなった時や急に暑くなった時です。
季節の変わり目には、最高気温と最低気温との温度差が大きい日や、前日と比較して急に暑くなったり寒くなったりすることも増えるため、案外危険と言えます。前日と比較して8度以上の温度差があれば気を付けた方がいいです。
このように寒暖差の大きい状態では、生体機能にも影響がでます。寒さに体が適応しないうちに急激な気温の変化が頻発すると、心臓や脳の血管に不調が起こりやすくなる。身体の冷えや肩こり、食欲不振、めまい、だるさ、頭痛などが出現しやすいとされます。悪化すると慢性的な自律神経失調症に繋がり、これは寒暖差疲労とも呼ばれます。
急に寒くなった日には、体内から熱を逃さないようにするために血管が収縮し、血圧は上昇しやすくなります。それに伴い大きな血圧変動が起こり、血管や心臓への負担が大きくなってしまいます。血圧が高い人では、日常的に血管に大きな負担がかかっています。高血圧を放置していると、血管が傷んで脆くなっていることが多く、気候変動に伴う急激な血圧上昇に耐えられず、血管が破れる可能性が高まり、大変危険です。
一方、急に暑くなった日には、冷えていたからだが急に温められます。収縮していた血管は拡張し、血圧は急激に下がる可能性があります。
病型別には、脳出血やくも膜下出血は血圧が上がると特に発症しやすくなりますので、寒い時期に多いですが、とりわけ、くも膜下出血の患者さんではほとんどの場合に脳動脈瘤という脳血管にできたコブの破裂が原因ですから、急激に血圧が上がると生じやすくなると考えられます。
ですから、秋から冬にかけての寒さが厳しくなっていく時期に多いようです。
一方、3月から4月の春先には三寒四温といって寒い日と暑い日が交互に来る時期があります。この時期にもやや多いという報告もあります。
脳出血も血圧にかなり左右されます。
急な血圧の上昇も重要な要素ですが、厳しい寒さで血圧が高い状態が続いていると、血管の受けるストレスも溜まってきて、血管が破綻しやすくなるとも考えられます。
ですので、12月から1月の冬場に最も生じやすい一方、温暖な気候の4月から初夏にかけては起こりにくい傾向があります。
脳梗塞については、高血圧も重要な因子ですが、その他の様々な要因が絡んでいるため、傾向は単純ではありませんし、周期性は報告により様々です。
これまでに述べたような脱水、血圧の急な変動、そして高い血圧の持続、こういった因子がそれぞれ脳梗塞を誘発する可能性がありますから、夏場、気温の変動しやすい秋口や春先、そして真冬にもピークが見られてもおかしくはありません。
ちなみに、広島大学の研究グループからの報告では、約4,000人の脳卒中について、前日よりも気温が上がった日、または下がった日は、脳梗塞の発症リスクが約1.2倍になるとのことです。脳卒中のリスクの高い人は、前日との気温差のある日には注意した方がいいです。
さて、気候や気温の変動が脳卒中の発症に影響するということは、各国で比較すると必ずしも同じ傾向を示すものではなく、また国内でも発症の時期に地域差があってもおかしくありません。
脳卒中の起こりやすい時間帯
脳卒中の起こりやすい時間帯は、朝と夕方にピークがあります。これは、血圧の日内変動に相関しているようです。
朝は、特に血圧が変動しやすい時間です。多くの人は、夜間睡眠中に血圧が低い状態にあります。起床時、活動開始と同時に血圧が急に上がる人は少なくなく、これは”モーニングサージ”と呼ばれています。脳卒中の発症にはどのタイプも血圧の変動が重要ですので、朝は脳卒中が増える危険な時間帯です。そして、午前中は仕事や家事で忙しいこともあり、身体的・精神的ストレスが重なるため、午前中には脳卒中が起こりやすいものです。
次に血圧が上がりやすいのは夕方です。夕方にも脳出血や脳梗塞が増えやすいというデータもありますので、注意しましょう。
夜にはリラックスするためか、脳卒中の発症は落ち着きます。そして、深夜にも脳卒中の発症は少ないのですが、これは実際に発症が少ないうえ、夜間に軽い脳卒中を発症しても本人や家族も寝ているため気付かれないことも影響していると思われます。
その他、1週間のうち週末(金曜日の夕方から月曜日の朝)に入院した脳卒中患者の致死率が高いことは、weekend effectとして知られています。
脳卒中予防のために
脳卒中の最大の危険因子は血圧です。普段からから自分の血圧をきちんと測って体調を把握し、必要な健康管理を怠らなければ、動脈硬化の抑制に繋がりますし、また日常生活において血圧の急な上昇を避けられる可能性があります。
普段の血圧が平均で135/85mmHg以上ある方は、医師に相談してみてください。治療は薬ばかりではなく、運動習慣や食生活の改善も重要な治療の柱です。降圧剤を飲み始めてからも、漫然と飲み続けるばかりが治療ではなく、血圧が適切かどうかのチェックを怠らないことが重要です。体質改善や年齢とともに逆に落ち着く方も中にはいらっしゃいます。
夏場には、こまめに水分補給して脳梗塞を防ぎましょう。 ただし、飲酒は水分補給に適していません。アルコールには利尿作用があり、脱水状態の改善にはつながりません。同じく、カフェイン入りのコーヒーや緑茶にも利尿作用があります。水分補給には、 水や麦茶、スポーツ飲料などを選びましょう。
就寝前にはコップ1杯の水を飲むと良いです。前立腺肥大などにより頻尿の方は夜間にトイレに行く回数が増えて困ることがあるかもしれませんので、就寝前のトイレの習慣を心がけましょう。その他、心臓や腎臓の持病のある方では、水分の摂り過ぎが負担になることもあるので、主治医の指示に従ってください。
寒い冬の時期の屋内では、例えば暖房の効いている居間と廊下との温度差、浴室と脱衣室の温度差などにも注意しなければなりません。温度差を異常に感じるかたは、脱衣所に小さな暖房器具を置くなど、温度差を減らす対策を行ってください。
朝は、体の基礎代謝も落ちていて、体温も下がっています。寒い冬の朝に急に布団から出ると血圧が急上昇して大変危険です。居間を温めるなど、対策を考えましょう。暖房器具のほか、衣類や体操、運動などを工夫することで、血圧や体調を整えるために出来ることが沢山あるので、自分に合った対策を考えてみてください。