認知症のトラブル~薬を飲まない~
- 2022年1月31日
認知症の患者さんに薬を飲んでもらう
認知症の方では、薬を飲むのを忘れがちになります。家族と同居の方は、家族に確認してもらうといいでしょう。ただ、家族が留守にしている時間が多い場合や一人暮らしの場合、また高齢夫婦の2人暮らしで薬の確認ができない場合などもあります。
認知症患者さんに関する薬のトラブル
① 医師の指示通りに飲むことが難しい。
② 薬を飲むのを嫌がる。
③ 薬を飲んだのに「飲んでいない」と言う。
医師の指示通りに飲むことが難しい場合
お薬ケースやお薬カレンダーを用いる
お薬ケース(ピルケース)は、曜日や時間ごとに中が仕切られています。あらかじめ薬を入れておくと飲みやすくなる場合があります。
また、同じようなものですが、お薬カレンダーを用いて整理する方法もあります。
本人が、日付や曜日が分かる方の場合には、お薬ケース(ピルケース)やお薬カレンダーに毎日の薬を入れてセットしておきましょう。飲む薬が理解しやすくなりますし、薬を飲んだかどうかの確認にもなります。
薬局やインターネット、100円ショップなどでも販売しているものがあります。
紙に書いて見やすいところに置いておく
「薬を飲みましたか」などと目立つ字で紙に書いて置いておくと、薬を飲むことを思い出してくれるかもしれません。食卓や、壁、部屋のドアやトイレなどの目につくところに貼ってみましょう。
電話で確認する
一人暮らしの場合や、家族が仕事などで薬を飲んだかどうかを確認できない場合には、薬を飲み終わったころの時刻に電話して、「今朝の薬が机の上にありますよね。あったら今から飲んでくださいね。」と伝えましょう。
家庭の事情に応じて服薬の時間を調整する
例えば昼の薬は、家族全員が外出しているため、飲ませるのが難しいケースが少なくなりません。また、ご家族の仕事の都合によっては、朝や夕にも飲ませることができない場合もあります。
必ずその時間に飲ませないといけない薬は案外少ないものです。医師に相談の上、ご家庭の事情に合わせて薬を飲む時間を調整してもらいましょう。
デイサービス、ヘルパー、訪問薬剤指導を利用する
認知症の方では、介護保険を申請し、デイサービスやヘルパーサービスを利用されている方は多いと思います。デイサービスのある日にはデイサービスの時に、またヘルパーを利用する日にはヘルパーさんに薬を飲ませてもらうようにお願いすることもできます。週に4-5回確実に飲めるだけでもかなり違ってきますので、相談してみましょう。
薬の服薬に問題のある場合には、訪問薬剤指導を利用することもできます。薬剤師が自宅へ薬を配達し、服薬状況の確認をして、適切に服薬できるように工夫をして、指導をしてくくれます。
なお、訪問薬剤指導を利用すると、「在宅患者訪問薬剤管理指導料(5,500円)」が掛かり、その一部を自己負担する必要があります。
薬の数を少なくできないかを検討する
服薬する薬の数が多いと、適切に内服できない可能性が高まります。飲むこと自体が大変で、嫌になるかもしれません。
薬には、絶対に欠かせない薬と、無理に飲まなくてもどうにかなる薬もあります。また、降圧剤やコレステロールの薬など、2種類の薬を1錠にまとめることができるケースもあります。医師と相談して、薬の数を減らしてもらうことができないかを検討しましょう。
なお、主治医に確認せずに勝手に外すことはしないようにしましょう。
薬の飲み方や剤型を工夫する
薬を1日2~3回服用して、飲むタイミングが複雑になると、飲み忘れが多くなる現認になります。なるべく1日1回にした方が薬を飲みやすいものです。
薬が1日1回だけだと、本人が習慣づけやすくなるほか、家族や周囲の人が管理しやすくなります。また、デイサービスやヘルパーさんに服薬の依頼をしやすくなります。
その他、錠剤には、口の中で溶けるタイプの口腔内崩壊錠などもあります。口に含むと溶けて無理に飲み込まなくても服薬できます。
薬によっては粉薬やシロップ、貼付剤、軟膏やクリームなどを用いる方法もあります。
錠剤が飲めなくなったら、医師の指示で錠剤を粉砕してもらうように頼みましょう。
本人が飲みづらそうにしている場合には、錠剤がいいか、シロップや粉薬がいいか、尋ねてみましょう。
「一包化」する
高齢者では、5~10種類以上の薬を飲んでいることも少なくありません。薬の数が多くなると、どれを飲んだらいいのかわかりづらくなります。そのような場合、一度に飲む薬を一袋に纏めてもらうのも有効です。朝の薬、昼の薬、夕の薬に分けて、それぞれを袋に入れてもらうことを「一包化」と言います。
一包化した場合、袋に日付や飲むタイミング(「朝食後」など)を記入してもらうこともできます。主治医にお願いしてみましょう。
なお、一包化すると、薬局で若干の追加費用が掛かります。
また、一包化している場合、月の途中で薬の変更が必要になった場合には、途中で不要な薬のみを外すのが難しくなります。
薬を飲むのを嫌がる場合
認知症の方の中には、自分に薬は必要ではないと思っている方や、毒を盛られていると感じている方もいます。
「私は病気ではないから薬は飲まない」と拒否する方も少なくありません。
また、薬は一気に飲みこむと味を感じることもありませんが、飲み込みに時間がかかってしまうと苦みを感じて吐き出してしまうかもしれません。嫌な思いをきっかけに、薬を拒否するようになることもあります。
薬を飲む意義を理解していない方にとって、薬を飲むことは苦痛でしかありません。
一方、「薬を飲まないと物忘れが進みますよ。」「薬を飲まないと血圧が上がって脳梗塞になって倒れますよ。」などと理屈をつけて説明しても、本人は脅されているように感じて不愉快な思いをしかねません。
勧め方を工夫する
先に述べたように、頭ごなしに薬の重要性を説いて無理に押し付けると、本人はますます薬を拒否するようになりかねません。
本人も信頼している第三者の名前を使うといいこともあります。
〇 「〇〇先生が出してくれたよく効く薬ですよ。」
〇 「〇〇さんが勧めていましたよ。」
などと言って勧めてみましょう。
また、似たような形の薬を用意しておいて、
〇 「私も飲んだらすごく調子いいですから、一緒に飲みましょう」
と勧めるのも効果があるかもしれません。
用意しておく薬としては、普段からあなたが飲んでいる薬や、整腸剤、胃薬などがいいでしょう。
介護者以外の人に勧めてもらう
介護者がいくら勧めてもその気にならないこともあるでしょう。その場合には、その方に関わりのある医療者や介護スタッフから薬を勧めもらいましょう。
しばしば、医師や訪問看護師、介護スタッフ、ケアマネージャーから丁寧に説明を受けると服薬する気になる場合もあります。
食べ物に混ぜる
本人が強く拒絶して薬を飲まない場合にも、薬を飲まないことで健康状態が悪化する場合があります。
しかし実際には本人が強く拒否する場合には薬を飲ませるのは困難です。その場合には、食べ物や飲み物に混ぜて飲ませることも必要になります。
薬を飲んだのに「飲んでいない」と言う場合
周りの人にとっては客観的な事実であっても、本人の記憶にないことは、本人にとって事実ではありません。逆に、本人の信じていることは、本人にとっては絶対的な事実です。
本人と周囲の理解にギャップがある場合、事実確認に躍起になることは、時間と労力を消耗するだけです。また、本人の混乱を増すばかりになり、解決にはつながりません。薬を飲んだ後にそれを覚えていなくても、「もう飲んだから駄目ですよ。」と言っても本人が納得することはありません。
一方で、薬を余分に飲ませたら後日飲む薬が足りなくなるうえ、薬の副作用が強く出る可能性もあります。このような場合には市販の整腸薬やサプリメントなどを渡してみて下さい。このように対処した方が関係がこじれなくていいでしょう。