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痛い帯状疱疹を防ぐだけじゃない?ワクチンと認知症の意外な関係

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痛い帯状疱疹を防ぐだけじゃない?ワクチンと認知症の意外な関係

  • 2026年3月8日

皆様、こんにちは。

年齢を重ねるにつれて、健康に関する気がかりなことは少しずつ変化していくものです。日々の診療のなかでも、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)の痛みが怖い」「将来、認知症になったらどうしよう」といったご相談をよくお受けします。

実は最近、この2つの不安を同時に和らげてくれるかもしれない、非常に興味深い医学研究が世界中で発表され、医療界で大きな話題になっています。今回は、帯状疱疹ワクチンと認知症予防の「意外な関係」について、最新の知見を分かりやすくご紹介します。

帯状疱疹のおさらい

帯状疱疹は、多くの方が子どもの頃に感染した「水ぼうそう」のウイルスが原因です。

治った後もウイルスは体内の神経に静かに潜伏し続け、加齢や疲労、ストレスなどで免疫力が低下した際に再び暴れ出します。これが神経を伝って皮膚に赤い発疹と激しい痛みを引き起こします。

50歳を過ぎると発症リスクが急激に高まるため、ワクチンによる予防が推奨されています。

ワクチンが認知症のリスクを下げる?

これまで、ワクチンはあくまで「帯状疱疹の発症と重症化を防ぐもの」と考えられてきました。しかし2024年、海外の権威ある医学誌において、「帯状疱疹ワクチンを接種した人は、接種していない人に比べて、その後の認知症発症リスクが約20%近く低下する」という大規模な調査結果が次々と報告されました。 特に、現在主流となっている効果の高い「不活化ワクチン(製品名:シングリックス)」において、顕著なリスク低減効果が確認されています。

なぜ効果があるの?

「神経の病気」である帯状疱疹と、「脳の病気」であるアルツハイマー型認知症。一見無関係に思えますが、実は密接な関わりがあると考えられています。

体内に潜んでいるウイルスが活動を再開すると、神経に微小な「炎症」を起こします。この炎症が脳に悪影響を及ぼし、認知症の原因となる異常なタンパク質を脳内に溜まりやすくしているのではないか、という説が有力です。 つまり、ワクチンでウイルスの活動を強力に抑え込むことが、結果的に脳内の炎症を防ぎ、認知症から脳を守る「防波堤」になっている可能性があるのです。

これからの予防医療として

もちろん、帯状疱疹ワクチンは「認知症の治療薬」ではありません。しかし、激しい痛みや長引く神経痛を防ぐという本来の大きなメリットに加えて、「将来の脳の健康を守る」という嬉しい副産物が期待できることは、接種を迷われている方にとって前向きな材料になるのではないでしょうか。

帯状疱疹ワクチンは50歳以上の方が対象となります(※一部の疾患をお持ちの方は18歳以上から可能です)。ご自身の健康投資として、ワクチンの種類や費用、効果について詳しく知りたい方は、ぜひお気軽に当院へご相談ください。これからも、皆様の健やかな毎日と未来を守るお手伝いをしてまいります。

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以下は、より専門的な内容です。

1. エビデンスのハイライト(主要な研究報告)

主に『Nature』や『Nature Medicine』などのトップジャーナルで、ワクチン接種による有意なリスク低減効果が示されています。

  • 不活化ワクチン(シングリックス:RZV)の優位性

    • Nature Medicine (2024年7月): 約10万人規模の電子カルテデータを解析した米国の後ろ向きコホート研究では、生ワクチン(Zostavax:ZVL)接種群と比較して、不活化ワクチンであるシングリックス接種群は接種後6年以内の認知症リスクが17%低いことが示されました。

    • さらに、同研究でインフルエンザワクチンと比較して23%、DPT(破傷風・ジフテリア・百日咳)ワクチンと比較して28%のリスク低下が認められています。

  • 生ワクチンによる自然実験(RDD)

    • Nature (2024年4月): 英国ウェールズにおける生ワクチンの導入要件(生年月日による適格性の違い)を利用した回帰不連続デザインの研究では、ワクチン接種により7年間の追跡期間中の新規認知症発症リスクが相対的に約20%低下したことが報告されました。なお、この効果は女性でより顕著に表れています。

  • 認知症進行の抑制の可能性

    • 最近の『Cell』誌などの報告では、すでに軽度認知障害(MCI)や認知症を発症している患者においても、VZVワクチン接種が疾患の進行を遅らせ、認知症を原因とする死亡リスクを低下させる可能性が示唆されています。

 

2. 想定されているメカニズム

なぜ帯状疱疹ワクチンがADリスクを低下させるのかについては、現時点では以下のメカニズムが複合的に関与していると考えられています。

  • VZVの再活性化と神経炎症の阻止 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化する際、中枢神経系に微小な炎症を引き起こし、これがアミロイドβ(Aβ)の沈着やタウ蛋白のリン酸化を促進するトリガーになるという仮説です。ワクチンによってこのプロセスを上流でブロックしている可能性があります。

  • 単純ヘルペスウイルス(HSV-1)との交差・誘発の抑制 AD病理に深く関与しているとされるHSV-1ですが、VZVの再活性化が休眠中のHSV-1の再活性化を誘発するという説があります。VZVを強力に抑え込むことで、間接的にHSV-1による脳へのダメージも防いでいる可能性が指摘されています。

  • 非特異的な免疫調節作用(Trained Immunity) ワクチン接種(特にシングリックスのような強力なアジュバントを含む不活化ワクチン)が、自然免疫系にエピジェネティックな変化をもたらし、脳内のミクログリアによるAβ貪食能の向上や、全身性の慢性炎症抑制に寄与しているという仮説です。

  • 二次的要因(疼痛や薬剤)の排除 帯状疱疹による激烈な疼痛や帯状疱疹後神経痛(PHN)がもたらす慢性ストレス、そしてそれに伴うオピオイドや抗うつ薬、抗てんかん薬などの長期処方が認知機能低下を招くリスクがあり、疾患そのものを予防することでこれらのマイナス要因を排除できているという見方です。

 

■ 参考・引用文献 本コラムの内容は、近年発表された以下の医学論文等の報告に基づいています。

  1. 不活化ワクチン(シングリックス)に関する大規模調査(約17%のリスク低下) Taquet, M., Dercon, Q., Todd, J.A. et al. The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia. Nature Medicine 30, 2777–2781 (2024). (※米国の約10万人規模のデータ解析により、不活化ワクチンは従来の生ワクチンと比較して認知症リスクを17%低下させたと報告したオックスフォード大学の研究)

  2. 生ワクチンに関する自然実験(約20%のリスク低下) Eyting, M., Geldsetzer, P., et al. Causal evidence that herpes zoster vaccination reduces dementia risk. Nature (2024). (※英国ウェールズにおける約30万人規模のデータから、ワクチン接種が新規の認知症発症リスクを約20%低下させたと報告したスタンフォード大学などの研究)

  3. 認知症進行抑制の可能性に関する最新知見 Geldsetzer, P., et al. The effect of shingles vaccination at different stages of the dementia disease course. Cell (2025).(※すでに軽度認知障害や認知症を発症している方においても、ワクチン接種が疾患の進行を遅らせる可能性を示唆した最新の報告)

院長 橋口 公章(はしぐち きみあき)
記事監修
院長 橋口 公章(はしぐち きみあき)

福岡生まれ、福岡育ち。

九州大学医学部卒業。
医学博士。

 

脳神経外科専門医、日本脳卒中学会専門医、日本てんかん学会専門医、日本定位・機能神経外科学会機能的定位脳手術技術認定、迷走神経刺激療法資格認定、日本小児神経外科学会技術認定医。

人との繋がりを大切にし、福岡および周辺地域の患者様の脳神経外科治療に尽力している。

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