末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺とハント症候群)
ベル麻痺とラムゼイ・ハント症候群(ハント症候群)はいずれも、ある日突然片方の顔面の動きが麻痺する病気です。
ある日突然、「片方の口角から涎が垂れるのに気づいた」、「鏡を見ると顔が歪んでいた」といったことで病院を受診します。両者は似たような経過を辿りますが、ハント症候群の方が症状は重いとされます。
症状は?
ベル麻痺とハント症候群の症状は、いずれも顔面神経の末梢性の麻痺によるものです。
右と左のうち片方の顔面が歪んで、目や口をしっかりと閉じることができない、おでこの皺が非対称などといった症状が出現します。
- 口をしっかりと閉じることができないため、涎が垂れます。
- 頬を膨らまそうとしても空気が漏れて膨らみません。
- 「イー」という口が出来ません。
- 閉眼ができなくなり、寝ているときにも目が開いたままで目が乾燥してしまいます。
- 放置していると角膜が傷ついてしまい、これが悪化すると視力障害に繋がります。
- 涙や唾液の分泌が低下して、口が乾燥したり、目の乾燥が悪化したりします。
中枢性顔面麻痺との違い
ベル麻痺もハント症候群もともに、脳から出た末梢神経に異常のある「末梢性の顔面神経麻痺」です。脳そのものに異常がある「中枢性の顔面神経麻痺」では額の部分の麻痺が起こらず、額に皺を寄せることが出来るのに対して、末梢性の顔面神経麻痺では額の筋肉も麻痺してしまいます。
その他の症状
ハント症候群では、前駆症状として肩こり、後頭部痛、耳のあたりの痛みなどを伴うことがあります。また、ハント症候群に特徴的な症状として、耳の付近が赤くなったり、水疱ができたり、耳が詰まったような感じになることもあります。その他、めまいや舌・口腔粘膜の病変を伴うこともあります。
原因は?
ハント症候群
ラムゼイハント症候群の原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスとされています。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、「水ぼうそう」や「帯状疱疹」のウイルスです。ウイルスが顔面神経に入り込んで麻痺を生じます。ウイルスが顔面神経に入り込んで活性化することで炎症が生じ、神経がむくみます。顔面神経が頭蓋骨の中を通るところで浮腫を起こした神経が骨に圧迫されて麻痺が生じるようです。
炎症が周囲の脳神経に波及すると、耳の症状が出現します。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、以前かかった時に体内に入り込んだウイルスが、症状が治まった後も顔面神経の膝神経節に潜伏し、何らかのきっかけで再活性化することで生じるといわれています。
ラムゼイハント症候群は、過労やストレス、病気などで免疫力が低下した時に生じやすいと言われています。
ベル麻痺
顔面神経麻痺の原因として最も多いものです。ベル麻痺では、明らかな異常は見つかりません。
むしろ、あらゆる検査で原因が特定できないものをベル麻痺と呼びます。またの名を、特発性末梢性顔面神経麻痺と言います。特発性とは、原因が見当たらないことを言います。
ベル麻痺の原因としては単純ヘルペスウイルスが有力視されています。耳症状を伴わない末梢性顔面神経麻痺の約60%では単純ヘルペスウイルスが原因とされ、20%は水痘・帯状疱疹ウイルスとの報告があります。
その他
糖尿病の患者さんでは発症率が4倍ほど高いようです。また、家族内の発症もやや多いようです。
検査は?
症状と経過から大体判断できますが、MRIやCTで脳梗塞や脳腫瘍ではないことを確認しておいた方が無難です。
顔面神経麻痺の程度については、柳原法やHouse & Brackmann分類などで評価します。
ハント症候群の場合、耳や舌の症状を伴っていたら診断は比較的容易です。しかし、そうでない場合も多数あります。
ハント症候群の診断には、血液検査の検体を用いてモノクローナル抗体によりウイルス抗原を検出する方法や、血清抗体価や特異的IgMの上昇を測定する方法があります。しかし、抗体価の上昇がみられない症例が多くあり、ベル麻痺との区別は容易ではありません。
発症から1週間程度で、電気診断(誘発筋電図・神経興奮性検査)などを行うと、予後の判定に有用です。
治療は?
ハント症候群の治療の基本は、ステロイドと抗ウイルス薬の内服です。薬物治療は、より早期(発症から3日~4以内)に治療を開始したほうが効果が高いと言われています。
ベル麻痺は、その原因は不明であり、ウイルスの関与についても明らかではありませんが、より重症で悪い経過を辿るハント症候群に準じて治療を行うことが多いと思われます。
その他、ビタミン剤(ビタミンB12)、血流改善薬、神経代謝賦活薬などを併用します。
発症してから1週間経過したころから顔面筋肉のリハビリを始めます。リハビリは主に顔面筋のマッサージなどになります。
経過は?
発症から早期には
まず、顔面神経麻痺の程度は、発症から数日から1週間以内に増悪する可能性があります。発症当日~翌日に病院を受診して、治療を開始してもらっても一時的には悪化するかもしれません。
その後の経過は
その後、顔面神経麻痺は次第に回復していきますが、回復には、数週間~数か月を要します。特に回復が得られやすいのは、発症から3か月までです。そのころまでにかなり回復しますし、もともと症状の軽い人では目立たなくなっているかもしれません。発症から3か月経過しても麻痺が残っている場合でも、6ヶ月~1年以内にはまだ若干の回復の余地はあると思います。ただ、発症から1年経過して残っている症状については固定してしまっている可能性が高いと思われます。
症状と回復の程度
回復の程度は、最も症状が強い時の症状の程度とある程度相関します。症状が軽い人は良好な経過を辿る一方、症状が強く出てしまった人では1年経過しても麻痺が多少残るかもしれません。
ベル麻痺とハント症候群では
一般に、ベル麻痺では良好な経過を辿ることが多く、大半の方が後遺症なく改善します。
ハント症候群の方がベル麻痺よりも症状が重いとされ、ハント症候群の患者さんでは治癒率が60%程度ともいわれていますので、後遺症が残るかもしれません。