慢性硬膜下血腫 | 福岡の脳神経外科 - はしぐち脳神経クリニック

慢性硬膜下血腫

Chronic subdural hematoma

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慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫とは

慢性硬膜下血腫とは、頭蓋内で、脳の表面に緩徐に血液が溜まるようになって、次第に脳を圧迫するようになる病気です。

 

    

 

いずれも一側に比較的大きな慢性硬膜下血腫があり、脳が圧迫を受けて歪んでいます。よく見ると、反対側にも小さなものがあります。

高齢者に多くみられるもので、麻痺などで発症して脳卒中と間違えらえることもしばしばあります。脳神経外科では最も多く見かける病気の一つであり、市中の大病院の脳神経外科では年間30~100もの手術例があります。

 

原因は?

慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部打撲をきっかけとして発症することが多いものです。高齢の方が歩いていて転倒して頭を打った、家の壁や柱で頭を打った、などといったことがきっかけになり、それから2-3週間以上かけて頭蓋内に血腫がたまるようになり、症状を出します。

ご本人やご家族に話を伺うと、「そう言えば、○週間くらい前に頭を強く打ったのを思い出した。」とおっしゃる方もいらっしゃいます。その他、どうしてもきっかけが分からない方も10~30%ほどいらっしゃいます。

高齢者は脳と脳を覆う硬膜との間に隙間があるため、血液が溜まりやすいので、高齢者に多いと考えられます。男性に多く、飲酒家では発生率が高いと報告されています。

血腫は透明の薄い被膜に覆われていて、被膜から出血を繰り返すことにより増大するのではないかと言われています。

60歳以上の高齢者が大半ですが、稀に青壮年にも発生することがあります。

稀に、悪性腫瘍が硬膜に転移して起こることがあります。このようなケースは特殊で、限られた症例になりますので、普通は心配しなくても大丈夫です。

 

症状は?

患者さんは、比較的急速な、もしくは数日前からの麻痺や活動性の低下を主訴に外来を受診したり、救急搬送されたりします。診察すると、記銘力や意欲の低下見当識障害認知症状などを伴っていたりします。

比較的若年の方では、頭痛で発症することもあります。

 

検査は?

頭部CTにてすぐに診断がつきます。造影剤を使用する必要はありません。頭部CTでは、血腫は頭蓋骨と脳との間の三日月型の領域として映ります。内部は概ね均一な色合いをしており、脳と同じようなグレーだったり、脳よりも白かったり、また脳よりもやや黒かったりもします。

真っ白に近いような色をしていたら新しく出たゼリー状の硬い血腫であり、急性もしくは亜急性の硬膜下血腫を示唆しています。

血腫はCTで概ね均一な色合いを示すと述べましたが、仰向けになって撮ったCTでは後頭部に濃い血液成分(白っぽい部分)が、前頭部に薄い漿液(水のような)成分が溜まることがあります。また、内部に隔壁構造があったり、新しい血腫と古い血腫が混在して色がまだらになったりすることもあります。

一方、脳脊髄液と似たような黒っぽい色をしている場合には、貯留液に殆ど血性成分は含まれておらず、透明か薄い黄色を帯びたような(キサントクロミー)水に近い液体です。これを硬膜下水腫と呼びます。

なお、重要なことは、血腫の存在により脳が圧迫を受けているかどうかです。脳が強い圧迫を受けている場合、変形して血腫の存在する側の脳が反対側に押し込まれている像(帯状回ヘルニア)を認めます。圧迫が強いと、テント切痕ヘルニアも認めるようになります。

その他、左右両側に認めることもしばしばあります。

MRIでも診断は可能です。ただ、出血そのものやそれに伴う脳の変化については、CTの方が見慣れていること、また術後の経過はCTでフォローすることなどの理由から、CT検査の方が重要だと思います。

 

治療は?

お薬の内服を併用した保存的治療(経過観察)と、手術による治療とがあります。

 

保存的治療

症状を伴わない厚さの薄い血腫や、内部の色が黒っぽい硬膜下水腫の場合には、基本的に保存的治療を選択します。薄い血腫の場合は手術をせずとも消失に向かう場合があります。水腫の場合はこれからそのままの可能性も、減少していく可能性もありますが、血腫に変化して増大していくこともあります。なお、水腫の状態のときには手術をしても改善しないことが多いとされています。

保存的治療の場合、トラネキサム酸や漢方薬の五苓散などを内服すると血腫が減少しやすいという報告が多数あります。

 

手術について

血腫の存在に伴う脳の圧迫症状がある時には手術を行います。

手術の場合、比較的容易な手術ですし、待っても良いことはありませんので、同日もしくは翌日に速やかに済ませるものです。

 

手術の具体的な方法

手術は穿頭血腫洗浄術などと呼ばれるもので、局所麻酔で行うことが可能です。

手術の概要

側頭部(耳の穴から7-8cm前方で、やや前方(症例により異なります))に皮膚を3-4cm切って、頭蓋骨に1円玉大の孔を開けます(穿ちます;穿頭術)。そして、見えてきた硬膜を十字に切開すると、血腫を包む病的な膜(外膜と呼びます)を認めます。この外膜を破ると、血腫が噴き出てきます。噴き出かたは、頭蓋内の圧力を表します。すなわち、血腫が脳を強く圧迫している場合には頭蓋内圧が高まって激しく噴き出ます。色合いも重要で、通常は赤褐色や黒褐色の液体です。通常の血液とは異なります。最初からこのような褐色の液体ではなく、漿液性の上澄み成分(CTでみられた黒い成分)が出て、残った液の中に褐色の成分が含まれていることもあります。血腫を人工髄液(アートセレブ)で何度も何度も繰り返し洗って、内部に血腫の成分が残っていないことを確認したら、内部にドレーン(チューブ)を残して傷を縫い合わせ、手術を終了します。

ドレーン(チューブ)は、内部に残った液体や手術中に入り込んだ空気を取り除く目的で、翌日まで置いておきます。翌日のCTで問題のないことを確認してから、ドレーンを抜去します。

 

その他、最近では内視鏡を併用した手術を行う施設もあります。

 

術後の再発について

1回の手術で90%の可能性で治ります。逆を言うと、10%では再発します。再発は、後れの方で脳の萎縮が強い例や、血液が固まりにくくなるような病気がある方、もしくは血液が固まりにくくなるような薬を飲んでいる方、脳室シャントカテーテルが入っている方などで多いとされます。

手術手技と再発率の関係について、明確な差はありませんが、私は血腫の取り残しがなるべく少ないこと、術後に頭蓋内に空気が入らないようにすることが極めて重要だと信じています。どのような術者が行っても、また穴をあけたら内部を洗わずにすぐにドレーンを挿入して手術を終了してしまう人もいます。このような方法でも90%近い人は1回の手術で治癒するとは思います。ただ、私は術者として100%再発がないようにすることを目標にしてほしいと思います。そのためには、血腫が1滴残らずなくなるように十分に洗浄すること、そして内部の空気が全くない状態を目指すことを重視しています。

 

その他の合併症・危険性

再発の他、術中・術後に全く危険性がないわけではありません。術中に内部を洗うチューブにより脳が傷つく可能性があります。滅多にありませんが、術後に急性の硬膜下血腫が出来てしまい、開頭手術を受けることになった患者さんもいます。稀なことですが、術後にけいれんが起こったり、術後感染が生じたりする可能性があります。

 

この「穿頭血腫洗浄術」は、脳神経外科医に成り立ての新人医師が最初に行う手術です。この手術はどの病院でも大抵、一番の若手が行います。ただ、管理責任者から見てひとりでさせることに不安がある場合には、上級医師がついて行いますので、安心してもらっていいと思います。

 

術後には

手術後は、翌日にドレーンを抜、きまた1週間後くらいに抜糸(または抜鈎)を行います。抜糸まで入院していてもいいのですが、早い施設では退院可能になったら翌日に退院を勧めるところもあります。

 

特殊な慢性硬膜下血腫

器質化硬膜下血腫

血腫の厚さが症状を出すほどではない場合、患者さんやご家族は気付きません。このような場合、長期間放置していると徐々に被膜が厚く、硬くなってしまっていることがあります。後に何らかのきっかけでCTを行って発見されることもあります。こうなってしまうと通常の穿頭手術では治りません。内部の液体を取り除いても、被膜が固いため、血腫のスペースが小さくならず、脳が膨らみません。治療が必要な場合には、全身麻酔による開頭手術を行います。

なお、器質化した血腫があっても無症状の場合、将来に変化することも少ないでしょうから、敢えて全身麻酔をかけて開頭手術を行う必要はないかもしれません。

 

水頭症に対する脳室シャント手術後の慢性硬膜下血腫

水頭症に対するシャント手術後の患者さんでは、シャントがやや効きすぎていると頭蓋内圧が低くなる傾向にあるため、脳と頭蓋骨との間に隙間ができやすく、慢性硬膜下血腫になりやすい場合があります。一方、シャントによる圧の低下がむしろ少なめの場合には隙間もできにくいので、脳室シャントが入っている患者さん全てに当てはまるわけではありません。

脳室シャントが入っている患者さんに慢性硬膜下血腫が出来てしまった場合には、頭蓋骨と脳との間の隙間が消失しづらくなり、つまり完治しにくくなるので注意が必要です。場合によっては、シャントの設定圧を上げるなり、シャントを一時的に結紮するなりの手段を取らなければならないかもしれません。

 

転移性脳腫瘍に伴う慢性硬膜下血腫

稀なことですが、癌が硬膜に転移することがあります。その場合には慢性硬膜下血腫を起こします。胃がん前立腺がん肺がん乳がんなどで報告がなされていますが、原発巣が不明のものもあります。

癌の転移の場合には、癌の治療の既往があったり、比較的若年者だったり、頭部打撲歴が不明だったり、脳の萎縮が少なかったりといったことから、経験のある専門医であれば普通の慢性硬膜下血腫と異なると気づくかもしれません。一方、全身のCT検査で初めて腫瘍が見つかることや、血液検査では凝固系の異常や腫瘍マーカーの上昇が捉えられるかもしれません。

癌の硬膜下転移の場合、残念ながら慢性硬膜下血腫の経過も良くないですし、転移した癌なのでその後の見込みも厳しくなってしまうことが多いです。