脳室内腫瘍
中枢性神経細胞腫 central neurocytoma
側脳室の前半部に好発する腫瘍です。WHO grade 2に相当します。原発性脳腫瘍の0.5%と比較的稀な腫瘍ではありますが、脳室内に発生する腫瘍の中では比較的多く見かけます。
腫瘍が大きくなってから水頭症の症状で見つかることが多いですが、腫瘍内出血がきっかけとなることや、偶然発見されることもあります。
血流が豊富で内部には嚢胞や石灰化があり、CTによる石灰化病変や、MRIによる嚢胞、造影剤による増強効果などから診断を推測できます。
CT
MRI 造影 T1強調画像
MRI 造影 T2強調画像
手術による全摘出が最も望ましいのですが、大変出血しやすいこと、しばしばかなり大きくなってから発見されること、脳室の脳弓などの重要な器官と接していることなどから、全摘出可能な症例は半分以下に留まると報告されています。全摘出できなかった場合には、残存腫瘍に放射線照射を行うと、再発率はかなり下がります。
長期生存率は良好で、全摘出を行わなくても10年生存率は93%との報告があります。
髄膜腫 Meningioma
髄膜腫は、良性脳腫瘍の代表格です(別項で解説あります;髄膜腫)。
髄膜腫は脳室内にも発生することがあります。脳室内で、最も多く発生するのは側脳室三角部とよばれる、側脳室の後方部分です。時に、第三脳室、第四脳室に発生することがあります。青壮年に多い傾向があるようです。やはり大きくなって症状が出てから発見されるか、頭痛などで検査をした際にたまたま見つかる場合も結構多いと思われます。
治療方法は、手術になります。側脳室三角部に発生した場合、脳を深くまで切らないと腫瘍に到達できないため、どのように腫瘍にアプローチするかが問題になります。
無症状で、比較的小さなものでは、経過観察することもあります。
CT
MRI造影 T1強調画像
脈絡叢嚢胞 Choroidal cyst
脳室内の脈絡叢(脳脊髄液ができる組織)にみられるのう胞(液体の溜まった袋)です。時に多発します。中身は脳脊髄液と同じような無色透明の液体で、CTやMRIでみると、袋状の薄いのう胞の中に取り囲まれるようにして、脳脊髄液と同じ色調の均一な液体が入っています。
小さなものが殆どで、無症状であれば治療の必要は一切ありません。
上衣腫 Ependymoma
比較的頻度の少ない腫瘍で、小児に多く発生しますが、成人でも見られます。WHO grade IIです。グリオーマに分類されています。
第四脳室と脊髄に多く、次いで側脳室に多いですが、時として脳実質の内部にも発生します。
特定の症状はありませんが、第四脳室の付近に発生した場合には、水頭症を伴って頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状、めまい、小脳性の失調などで発症します。脊髄に発症した場合には運動麻痺、感覚障害を生じます。
MRIでは、比較的腫瘍の境界がはっきりしており、造影剤でしばしば白く映ります。のう胞、石灰化などを伴うこともあります。
治療で最も重要なのは、手術により腫瘍をできるだけ多く摘出することです。残存腫瘍に対する放射線治療は有効とされていますが、抗がん剤による化学療法は無効なことが多いようです。放射線治療は、原則として局所照射ですが、播種の見られる症例では全脳全脊髄照射になります。
5年生存率は70~90%、ですが、悪性度がgrade IIIのもの、4歳未満などでは予後が悪くなるようです。逆に、遺伝子診断で15qが過剰な場合には予後が良好なようです。
上衣下腫 Subependymoma
高齢者に多い比較的おとなしい性格の腫瘍です(WHO grade 1)。比較的稀です。男性の方が2:1で多いとされます。好発部位は第四脳室と側脳室です。徐々に増大し、頭痛やふらつき、記銘力低下などで発見されるケースや、たまたま見つかるケースも多くあります。
CTでは黒い(低吸収の)ことが多く、石灰化(局所的な白い部分)は稀ではありません。MRIでは、造影剤で増強されない(白くならない)ことが多いです。
CT
MRI 造影 T1強調画像
良性腫瘍ですので、無症状の小さなものに関しては経過観察がいいと思います。症候性のものや明らかに大きくなっているものについては手術を行う場合もありますが、摘出後には亜全摘であっても再発、再増大するケースは少ないようです。
上衣下巨細胞性星細胞腫
英語では、subependymal giant cell astrocytoma、略してSEGAと呼びます。結節性硬化症という遺伝子の病気と関連した脳腫瘍で、WHO grade Iの良性腫瘍です。
小児や若年成人の側脳室に発生します。大きくなってモンロー孔(側脳室と第三脳室の間の穴)を塞ぐと、脳脊髄液の流れが遮断されて、閉塞性水頭症を生じます。
大きくなって水頭症を来すようなものでは、治療を検討します。治療方法としては、手術、放射線治療、抗がん剤の3つがあります。エベロリムス(アフィニトール)という抗がん剤は2012年から日本でも使用可能になりました。但し、非常に高額なお薬で、使用をやめると腫瘍が再増大するようですので、使い方を考えて使用しなければなりません。
コロイド嚢胞
第三脳室の上方の、モンロー孔(側脳室と第三脳室の間にある穴)の付近に出来るのう胞です。中身はタンパク質を沢山含んだゼラチン様の粘液です。
トルコ鞍の付近に出来るラトケのう胞、脊髄や脳幹の前面にできるendodermal cyst、nuroenteric cystなどとは同様の組織から成ります。
良性の腫瘍で、20~60歳代に多く、男性にやや多いとされます。比較的稀なものです。
第三脳室の天井からぶら下がったように存在しており、モンロー孔を塞いでしまうと脳脊髄液の流れが遮断され、水頭症により頭痛などの症状を来します。頭の位置や向きによって症状が起こることもあります。水頭症を放置していると頭痛から意識障害へと進行し、突然死に至ることも稀ながらあります。
CTでは白っぽい丸い物質として見えます。MRIでは、T1強調画像では白っぽく、T2強調画像では白~黒っぽかったりもします。
たまたま見つかったものについて急いで治療する必要はありませんが、症状を伴っている場合には、内視鏡などを用いた手術を検討することになります。
脈絡叢乳頭腫 Choroid plexus papilloma
脳室の脈絡叢上皮から発生する菱栄腫瘍です。WHO grade I~IIIに分かれますが、大部分はgrade Iです。
Grade I: 脈絡叢乳頭腫
Grade II: 異形脈絡叢乳頭腫
Grade III: 脈絡叢癌
脳内に播種して、複数の病変を伴うこともあります。
比較的稀で、乳幼児に多い傾向がありますが、成人にも発生します。小児では側脳室に、成人では第四脳室に多く発生します。
脳脊髄液を産生する組織である、脈絡叢が腫瘍化したものですので、脳脊髄液が過剰に産生されて水頭症を起こします。また、腫瘍そのもので脳脊髄液の流出路が閉塞することによっても水頭症を来します。乳児では頭囲が大きくなります。小児では歩行が不安定になり、ぐったりしたり嘔吐したりします。また、目の動きがおかしくなります。一方、成人では頭痛を来します。
CTやMRIでは、乳頭状、カリフラワー状の病変として映り、石灰化や造影剤による増強効果(白くなる)を伴います。
CT
MRI 造影 T1強調画像
脳室拡大 = 水頭症 (MRI)
治療の柱は手術で、全部摘出できれば良好な経過が期待できます。ただし、脈絡叢癌では抗がん剤による化学療法を追加する必要があります。