転移性脳腫瘍
転移性脳腫瘍とは
MRI 造影T1強調画像(左)とT2強調画像(右)
転移性脳腫瘍とはつまり、全身の癌が脳へ転移した状態のことです。
癌は、原発巣から血流にのって全身に流れていき、どこでも生着する性質を持っているから悪性なのです。
但し、脳には血液脳関門という血管の関所があり、脳に入り込むことは容易ではありません(脳は守られているのです)。脳に転移するのは容易ではありませんので、脳転移したということは進行癌であることを示唆しています。
癌全体の10%程度が経過中に脳へ転移すると言われます。脳腫瘍のうち20%弱を占めるとされます。
脳転移が見つかる経緯は
悪性腫瘍の脳転移が見つかる経緯として2タイプあります。
1つ目は、もともと癌があることが分かっていて、治療中に見つかるパターンです。このパターンが大部分です。中には脳に関わる何らかの症状が出現してきたために脳のCT/MRI検査を行って見つかる人もいますし、何らかのスクリーニングのために行った検査で見つかる人もいます。
2つ目は、何らかの脳神経の症状があるためCT/MRIを行った際に腫瘍が見つかり、調べてみると癌の転移だったというパターンです。中には、がんの転移であることはわかったけれども、原発巣がどこなのかわからないひとも少ないながら存在します(原発不明癌)。
原発巣と、転移しやすい脳の部位について
がんの原発巣として最も多いのは肺癌で、約半数を占めると言われます。次いで乳癌,胃癌,頭頸部癌,結腸癌,腎/膀胱癌,肝臓癌などとなりますが、基本的にどこのがんでも脳転移する可能性はあります。
一方、がんが転移しやすい脳の部位があるかどうか、これいついては特有の部位はありません。大脳や小脳など、いろいろなところに転移します。ただ、脳幹への転移はあまり見ませんし、少ないのかもしれません。
その他、髄膜癌腫症というのがあります。これはがん細胞が脳脊髄液に入り込み、脳の表面に散らばることです。頭痛を誘発し、水頭症を伴います。
脳に転移したことを示唆する症状とは
がんの脳転移を示唆する特有の症状はありません。殆ど、脳実質内腫瘍の項目で説明したものと同じ症状になります。つまり、一般的な症状として頭痛、おう吐やけいれん発作があり、局所症状として麻痺や失語、高次脳機能障害、視野欠損などがあります。進行すると意識障害を伴うようになります。
検査は?
CTとMRI
がんの脳転移に対する必須の検査は脳のCTもしくはMRIです。
スクリーニングにはどちらの検査を用いてもいいと思います。ただ、積極的に転移を疑ったときに小さな転移巣まで見つけるためには造影剤を使用した造影MRIが必要になります。
上の、1つめの画像は造影剤を使用したMRIです。脳の中に複数の白くて円形の病変があります。2つめの画像では、左脳(画像右側)を中心に脳が白くなっていて、周囲の脳の浮腫を示しています。
がんの脳転移は1か所とは限りません。ですので、1か所の転移巣が見つかった場合には、ほかにも病変がないかどうか確認するためにも造影MRIまで行うことが望ましいと思います。これは、治療のためにも必要なことで、後述の手術や放射線治療を行う前にも必須です。
その他の検査
その他、がんの脳転移の場合には腫瘍マーカーを含めた血液検査も行います。更には、がんの原発巣の状態や他の部位への転移の有無を確認するために全身の造影CTや糖代謝PET検査を行います。
必要に応じて腹部エコー検査や消化管内視鏡検査、気管支鏡検査、骨シンチなども提案されることがあるでしょう。
治療方針は?
脳転移に対する治療手段は、手術(開頭による腫瘍の摘出)と放射線治療です。
脳転移に対する手術は脳神経外科で行いますが、放射線治療はそのシステムを所有している診療科(脳神経外科もしくは放射線科)が主導して行います。
摘出手術の意義は
がんの脳転移に対して積極的に治療を行うかどうかを考える前提として、仮に脳の転移巣がコントロールされ、消失したという前提で、その患者さんの余命がどの程度あるのかを検討することが重要です。つまり、がんの脳転移は取り除くことができたけど余命はあと1か月しかないということであれば手術のメリットは少なくなります。
特に、開頭手術で腫瘍を取り除く場合、少なくとも術前検査で1週間、術後に2週間程度は脳転移の治療に必要になります。そして、脳転移に対する手術を受けた後に患者さんは速やかに回復するわけではありませんので、それだけ長い時間を脳転移の治療に割く意味があるのかどうかを考えなければなりません。脳転移の治療に長期間かけて入院するよりも、ご家族との大事な時間を少しでも長く持てた方がいいケースもあります。
一般的なことを申しますと、脳転移を摘出することで残された全身のがんの状態として余命が半年以上期待できる場合には積極的に手術を考えていいと思います。逆に、半年未満であれば手術を受けないという選択肢も十分に検討しなければなりません。
手術適応は、腫瘍の大きさが3㎝以上の場合とされます。3㎝を超えると放射線治療の効果が薄れるからです。
単発の3cmを超える腫瘍は手術の良い適応です。
放射線治療について
多発している場合には手術で全て取り除くわけにはいかないので放射線に頼らざるを得ませんが、それでも余命が厳しいかもしれません。
放射線治療には2種類あります。全ての脳に等しく放射線を照射する全脳照射と、転移した腫瘍にのみ強い放射線を当てるガンマナイフ治療です。どちらを選択するのかは微妙なところですが、MRIで確認できた転移した病変にのみガンマナイフを行っても、他のところから次々に出現していたちごっこになるかもしれません。一方、全脳照射した後に腫瘍が出てきても、これ以上の全脳照射は脳機能を損ねるため通常は行いません。ガンマナイフは、腫瘍の数が3-4個以下の場合や、放射線照射後に再発してきた腫瘍に用いると考えて下さい。
手術、ガンマナイフ、全脳照射の3種類の方法を提案しましたが、こうした治療の組み合わせもあります。多発病変のうち1つが3cmを超えている場合、この病変のみを摘出して、残りのものには放射線を当てるという方法もあります。そうでなくても、手術で全て取り切れなかったと考えられた場合には放射線治療との組み合わせで治療を行います。また、全脳放射線照射を行ったあと、コントロールできない病変があればガンマナイフを追加するという選択肢もあります。
全脳放射線照射は、安易に考えない方がいいです。何故なら、放射線を当てた量に応じて、数か月後に認知症の症状が出現してくる可能性が低くないからです。それでも、手術やガンマナイフ治療の対象とならないような癌細胞の存在が濃厚な場合には、受けざるを得ないかもしれません。
その他の治療は
髄膜癌腫症に対する治療
髄膜癌腫症で水頭症を伴っている場合、激しい頭痛や意識障害を改善させる目的で脳室-腹腔シャント手術が行われることがあります。但し、この手術を行うと脳脊髄液に存在する癌細胞が腹腔内にばらまかれることになるので、メリット-デメリットを慎重に考えて選択せねばなりません。
ステロイドや脳圧降下剤(浸透圧利尿剤)
手術や放射線治療といったがんを小さくする積極的な治療のほか、症状を緩和させ、状態を改善させることを目的とした点滴治療もあります。ステロイドや脳圧降下剤(浸透圧利尿剤)を用いると、腫瘍の周りの脳浮腫が改善し、頭痛や麻痺、意識障害などが和らぎます。
原発巣に対する治療
脳の治療以外の全身の治療や抗がん剤による治療はがんの原発巣に関わる診療科が行うのが通常です。
その他、明らかにがんの末期の状態で積極的な治療を希望されない場合、あるいは主治医から推奨されない場合には緩和ケアを受けることを考えたほうがいいかもしれません。