頭蓋骨骨折
頭蓋骨骨折について
頭蓋骨骨折は、頭部の限局した部位に強い圧力がかかったときに生じます。
大きく分けて線状骨折と陥没骨折に分けられます。
線状骨折とは?
線状骨折は、文字通り頭蓋骨にまっすぐ伸びた骨折線が特徴です。後方に転倒した時に後頭部にできるのを多く見かけるほか、側頭部や前頭部にもしばしば認めます。骨折しても通常、骨と骨の面がずれることは稀ですので、保存的治療(経過観察)のみで構わないです。
ただ、頭蓋骨の内面には硬膜という膜があり、この膜の表面を骨に接するようにして(あるいは食い込んで)走行しています。代表的な血管が、中硬膜動脈と呼ばれる血管で、頭蓋骨のちょうど側面、耳の前方から上方にかけて走行しています。頭蓋骨骨折の際の外力によりこうした硬膜動脈が傷つくと、頭蓋骨と硬膜の間に出血します。これを硬膜外血腫と呼びます。
また、例外的なケースもあって、例えば、耳の後ろの部分の骨折では聴力に関わる器官や顔面神経(顔の表情に関わる神経)などが入っていますので、こうした器官が損傷されることもあります。損傷を受けると、聴力障害や顔面麻痺の原因となります。重症頭部外傷の患者さんでは急性期(受傷直後から暫く)の間は意識がないことも頻繁にありますので、聴力障害や顔面麻痺に気づくのが遅れる可能性があり、この部位に骨折があれば最初から疑っておく必要があります。
陥没骨折とは?
陥没骨折は、骨のやや広い部分に強い外力が掛かった時に生じます。多く見かけるのは前側頭部のあたりです。これも軽く陥没しただけであれば問題ないのですが、このパターンの骨折は皮膚にも強い外力が加わっていることが多いので、皮膚は挫滅して開放骨折になることもしばしば見かけます。
開放骨折
開放骨折とは、骨折に皮膚の損傷を伴い、骨折した骨の断面が外界に晒されている状態を言います。この場合、頭蓋骨への感染の問題が生じます。従って、早い段階での洗浄と整復、創の閉鎖が必要になってきます。
頭蓋内感染
また、陥没した骨が硬膜(骨の裏にある比較的厚い膜)を傷つけることがあります。皮膚に損傷があり、硬膜も破れると、外界と脳が交通してしまうことになり、頭蓋内感染(髄膜炎)の危険に晒されることがありますので、抗生物質での予防が必要になります。
陥没骨折と脳挫傷
その他、こうした諸問題をクリアしても、陥没した骨が脳に食い込むことがあります。食い込み方が軽い場合には大きな問題にはなりません。しかし、ひどく食い込むと、脳を圧迫してしまうことになり、骨が脳に食い込んで脳が傷つきます(脳挫傷)。こうなると、てんかん発作を起こす原因ともなります。
整容上の問題
その他、大きく凹むことで整容上(見た目)の問題が発生することもあります。このようなケースでは、骨と骨との癒合が始まる前に骨を整復しなければなりません。通常、他の部位の骨折と同じ2週間以内というのが望ましいと考えます。
眼窩底骨折
他に、眼球が入っているスペース(眼窩)を形成している骨の骨折では、眼窩壁や視神経管(視力・視野に関わる神経が通る孔)が凹むことがあります。
視力低下を来したり、眼球の運動制限を起こしたりしますが、手術により回復が期待できるときは手術を行うこともあります。視力低下を来すような症例では、急性期に意識障害を伴っていることが多いので、その評価は簡単ではないのですが、視力低下を来したあと長時間たってから手術をしても視力回復は得られません。
髄液鼻漏と髄液耳漏
その他、顔面の奥には「副鼻腔」という壁が骨で形成された空洞がありますが、頭蓋骨の骨折がここに及ぶと鼻腔を通じて外界と繋がることになります。
体表面からは確認不能ですが、患者さんに「喉から水のような液体が流れてきますか」と尋ねて確認するか、耳鼻科の先生に覗いてもらって確認することになります。
こうしたことでもはっきりしないけれども、CTでは骨折があり髄液漏が疑われる場合には髄液漏があると考えて抗生剤の予防投与を行います。その他、明らかに髄液漏があれば臥床安静のまま腰椎ドレーンというものを腰から挿入して脳脊髄液を出し、鼻から液が漏れないようにして、1週間程度様子を見たりもします。1週間以上しても髄液漏が続くようなら、開頭手術により修復をはかることもあります。
同様に、頭蓋骨骨折が耳の奥で聴覚器官を取り囲むように発達している穴「乳突蜂巣」に及ぶと、髄液耳漏を起こすことがあります。この際にはしばしば耳出血を伴っていることもあり、区別は難しいのですが、耳から出てくる液体の性状とCT所見から髄液耳漏が疑わしい場合には鼻漏と同じように対応するのが望ましいと思われます。