血管芽腫
血管芽腫とは
血管芽腫は、主に小脳や延髄、脊髄に発生する腫瘍です。脳実質内腫瘍で、WHOのgrade 1の良性腫瘍です。
比較的珍しい腫瘍です(脳腫瘍の1~2%)。
von Hippel Lindau病(フォン・ヒッペル・リンドウ病、VHL病)という遺伝子疾患を有する患者さんに発生するタイプと、そうでないタイプの2つがあります。後者の方が過半数を占めます。
頭蓋内では、小脳に発生するのが全体の88%、延髄が6%です。成人の腫瘍で、VHL病関連では平均年齢が30歳代前半であるのに対して、それ以外では平均で40代後半です。比較的高齢の方でもみかけます。
小脳に発生した場合には嚢胞(液体の入った袋;上図白矢印)と壁在結節(腫瘍の塊;上図黄矢印)を有することが多く、診断の根拠となります。その他の部位に発生した場合には嚢胞がないことが多いです。
血管芽腫の患者さんの一部には多血症(血中ヘモグロビン高値; ≧18g/dl)が見られますが、これは腫瘍が産生する異所性エリスロポエチンの影響だとされています。
常染色体優性遺伝の病気で、中枢神経系の血管芽腫のほかに、網膜血管腫、腎嚢胞、腎細胞がん、膵像の神経内分泌腫瘍・嚢胞、副腎褐色細胞腫、精巣上体嚢胞腺腫などを合併する可能性があります。
症状は
腫瘍が存在する部位が主に小脳なので、小脳の障害による運動失調などが最も多い症状です。ふらつき、はきけ、めまいなどが出現することがあります。
その他、腫瘍がかなり大きくなり、脳室を圧迫して水頭症になってから症状が出現することもあり、その場合にはボーっとしていたりします。脳幹や脊髄に発生したら、感覚障害や麻痺などが出現するかもしれません。
検査・診断は
診断には、MRIやCTといった画像所見が重要で、年齢、VHL病の家族歴や多血症の存在は診断の補助となります。最終診断は摘出した標本の病理診断になります。
MRIでは、造影剤を使用した造影MRIが有用です。嚢胞性腫瘍では、造影剤により白くなる腫瘍のかたまり(結節; 上図黄矢印)に接するようにして、あるいは取り囲まれるようにして液体成分の嚢胞(上図白矢印)が存在します。
その他、VHL病の可能性を否定するために、眼窩検査や体幹臓器の造影CT検査を行った方がいいと思われます。また、VHL病では血管芽腫が多発することがありますので、脳から脊髄まですべての部位をMRIで調べておいた方がいいです。
手術を検討する場合には、脳血管造影(アンギオ)検査を受けた方がいいとされます。この腫瘍は、血管の塊のような腫瘍で、腫瘍に切り込むと大変出血します。また、腫瘍には太い動脈や静脈が入っていますので、こうした血管の把握は、治療戦略を決定するうえで重要です。
治療は?
治療の第一選択肢は手術により全ての腫瘍を取りきること(全摘出)です。腫瘍を全て取り切れば問題ありませんが、嚢胞と壁在結節の存在する腫瘍では、壁在結節のみを摘出すればいいとされます。
ただ、手術はそれほど容易なものではなく、腫瘍実質(造影剤で白くなるところ)が大きいもの(≧3cm)では飛躍的に難しくなります。それは、腫瘍が血管の塊だからです。腫瘍に切り込むことなく、腫瘍の周りを剥がしてくり抜く様にして摘出します。その際に、流入する動脈の処理を最初に行うと出血しづらくなります。一方、血液が流出する静脈はなるべく最後まで切離せずに温存します。
小さな腫瘍であれば放射線治療(ガンマナイフ、リニアック)で治療することもできます。ただ、放射線はすぐに効果が出るものではありませんし、小さくなる、もしくは大きくならないことを期待して行うものであり、消失することは滅多にありません。
予後は?
良性腫瘍ですので、経過は良好です。腫瘍を全て摘出すれば再発は滅多にありません。VHL病の場合には、他の部位の悪性腫瘍など全身の合併症の存在が予後を決定すると考えられます。