正しく知る「子どものてんかん」 ~最新の診断・治療から、園・学校生活のサポートまで~
- 2026年8月16日
1.てんかんとはどのような病気か?
てんかんとは、脳の神経細胞(ニューロン)の活動に異常が生じることで、てんかん発作を繰り返し起こす可能性が高くなる、脳の慢性疾患です。
「てんかん」と一言でいっても単一の病気ではなく、原因、発作の起こり方、脳波の特徴、発症年齢、発達への影響などによって、さまざまなタイプに分けられます。
また、「てんかん発作」と「てんかん」は同じ意味ではありません。
てんかん発作とは、一時的な脳の異常な電気活動によって生じる症状そのものを指します。一方、「てんかん」は、将来的にてんかん発作を繰り返すリスクが持続的に存在する状態を指します。
そのため、熱性けいれんや急性の病気に伴う発作など、1回のけいれんを起こしただけで、直ちに「てんかん」と診断されるわけではありません。
小児期てんかんの特徴:「自然終息性」のタイプもある
小児期に発症するてんかんの中には、成長とともに発作が自然に治まっていく「自然終息性(self-limited)」のタイプが存在します。
以前は「良性てんかん」と呼ばれていたものの中にも、発作が自然に消失する一方で、経過中に学習・注意・行動面などへの影響がみられる場合があります。そのため、現在は「良性」という表現を避け、「自然終息性」という言葉が用いられています。
代表的なものとして、「中心・側頭部棘波を示す自然終息性てんかん(SeLECTS)」などがあります。
もちろん、子どものてんかんがすべて自然終息性というわけではありません。発作だけでなく、発達や学習面も含めて、お子さんの成長を総合的に見守ることが大切です。
近年の国際的な分類では、小児期に発症するてんかん症候群を、自然に発作が治まっていくタイプ、遺伝的背景が考えられる全般てんかん、発達や認知機能への影響を伴うタイプなどに整理して考えるようになっています。
2.多彩なてんかん発作の症状
てんかん発作というと、「全身を激しくけいれんさせる姿」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実際のてんかん発作は非常に多様で、周囲からは発作だと気づきにくいものもあります。
- 強直・間代発作など:筋肉が急激に収縮し、手足を突っ張らせたり、ガクガクと規則的に震わせたりします。
- 欠神発作など:突然動作を止め、呼びかけに反応しなくなります。数秒から十数秒程度で元の状態に戻ることが多く、学校では「ぼーっとしている」「集中力がない」と誤解されることもあります。
- ミオクロニー発作:手足や体が、一瞬「ピクッ」と跳ねるように動く発作です。特定のてんかん症候群では、起床時などに目立つことがあります。
- てんかん性スパズム:主に乳幼児期にみられ、頭を一瞬カクンと落としたり、両腕を広げたり体を縮めたりする短い発作が、繰り返し起こります。早期の診断と治療が重要です。
- 自律神経・感覚症状や自動症:口をもぐもぐ動かす、手をもぞもぞさせる、急に強い恐怖感を示す、腹部の不快感や痛みを訴えるなど、多様な症状が現れることがあります。
「これって発作かな?」と気になる様子があれば、スマートフォンなどで動画を撮影しておくことを強くおすすめします。
発作の始まり方、視線や手足の動き、呼びかけへの反応、発作が続いた時間などを記録した動画は、診断の重要な手がかりになります。
3.診断と検査の流れ
てんかんの診断では、発作時の状況や症状、動画、診察所見、脳波検査、必要に応じた画像検査などを総合して判断します。
現在の国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類では、発作の起こり方をはじめ、てんかんのタイプ、てんかん症候群、そして背景にある原因などを段階的に評価します。
原因については、構造的、遺伝的、代謝性、感染性、免疫性などの可能性を検討します。
脳波検査
脳波検査は、子どものてんかんを診断するうえで重要な検査です。
発作が起きていないときにも、てんかんに特徴的な「てんかん性放電」が記録されることがあります。
ただし、「脳波が正常だからてんかんではない」とは限りません。
一方で、けいれん経験のない健康なお子さんでも脳波に異常波がみられることがあり、「脳波に異常があるから、それだけでてんかん」と診断できるわけでもありません。
脳波の結果を、実際に起こっている症状や発作時の動画などと合わせて総合的に判断することが重要です。
画像検査(頭部MRIなど)
頭部MRIでは、脳の構造的な異常など、発作の背景となる原因を調べます。
必要に応じて、PETやSPECTなど、脳の機能や血流を評価する検査を追加することもあります。特に薬物治療で発作のコントロールが難しい場合には、専門施設でより詳しい検査を行うことがあります。
4.子どものてんかんの治療法
薬物療法
小児てんかんの治療では、抗てんかん発作薬による薬物療法が基本となります。
大切なのは、発作のタイプやてんかん症候群に適した薬を選ぶことです。
薬を自己判断で中止したり、量を変更したりすると、発作が再発する可能性があります。特に長期間発作がない場合でも、薬を減らしたり中止したりするかどうかは、発作の種類、これまでの経過、脳波などを踏まえて主治医と慎重に相談して決めます。
外科治療
複数の適切な抗てんかん発作薬を使用しても発作が十分に抑えられない「薬剤抵抗性てんかん」では、専門施設で外科治療が検討されることがあります。
発作の焦点を切除する手術のほか、迷走神経刺激療法(VNS)などが選択肢となる場合があります。
ケトン食療法
高脂肪・低炭水化物の特別な食事によって、体内で産生されるケトン体を利用し、発作を抑える食事療法です。
厳密な栄養管理が必要となるため、専門医や管理栄養士などの指導のもとで行われます。
5.家庭・園・学校での過ごし方とサポート
① 規則正しい生活リズムと誘因の回避
てんかん発作は、さまざまな要因によって起こりやすくなることがあります。特に、睡眠不足、強い疲労、服薬忘れなどには注意が必要です。
- 規則正しい生活と十分な睡眠を心がけましょう。
- スマートフォンやタブレットそのものが、すべてのてんかんのお子さんに発作を起こすわけではありません。ただし、光刺激に反応して発作が起こるタイプでは注意が必要です。
- 夜遅くまで画面を見ることで睡眠不足にならないよう、家庭内で利用時間を決めておくことも大切です。
- 発熱や感染症、体調不良などが発作のきっかけになるお子さんもいるため、感染症への備えとして予防接種を適切に受け、発熱時の対応(解熱薬や頓服薬の使用)についてあらかじめ主治医に確認しておきましょう。
② 園や学校との情報共有と「過度な制限」の回避
万が一の発作に備えて、園や学校には、あらかじめ次のような情報を共有しておくと安心です。
- どのような発作が起こるのか
- 発作が起きたときの具体的な対応
- 何分続いた場合に救急要請するのか
- 救急用の薬(レスキュー薬)の有無と使用方法
- 体育や水泳など、活動時の注意点
大切なのは、「てんかんがあるから」という理由だけで、一律に活動を制限しないことです。
体育や学校行事、課外活動なども、発作のコントロール状況や活動内容、安全管理の体制を考慮しながら、できるだけ参加できる方法を検討します。
水泳も一律に禁止する必要はありませんが、発作が起こった場合の溺水を防ぐため、教員や監視員が十分に見守れる環境で行うことが大切です。
一方、登山、高所での活動、ダイビングなど、発作が起きた場合に重大な事故につながる可能性が高い活動については、事前に主治医と相談しましょう。
③ 発作が起きたときの初期対応
もし、お子さんが突然けいれんを起こしたら、周囲の人も驚いてしまいます。しかし、まずは慌てず、安全を確保することが大切です。
- 周囲の安全を確保する
硬い物や危険物を遠ざけ、倒れている場合には、頭の下に柔らかい物を敷いて頭を保護します。 - 呼吸を妨げない姿勢にする
衣服の首元などを緩めます。吐物や唾液による窒息・誤嚥を防ぐため、可能であれば体を横向きにします。発作中であっても嘔吐がある場合は、無理のない範囲で顔を横に向けてください。 - 口の中に物を入れない
「舌を噛まないように」と、指やタオルなどを口の中に入れるのは危険です。窒息や歯の破損、嘔吐の原因となるため、口の中に物を入れることは絶対に避けてください。 - 時間を計り、観察する
発作が始まった時刻を確認し、何分続いているかを記録します。可能であれば、手足の動きや目の向き、呼びかけへの反応なども観察してください。 - レスキュー薬の使用と救急要請
けいれんが5分以上続く場合は、速やかに救急要請を行うことが基本です。医師から救急用のレスキュー薬を処方されている場合には、あらかじめ指示されたタイミングと方法で使用します。
医療機関外で使用できるレスキュー薬
現在、日本では、以下のような医療機関外で使用できるレスキュー薬があります。
- ジアゼパム坐剤(ダイアップなど):直腸から投与する坐薬です。
- ミダゾラム口腔用液(ブコラム):頬と歯ぐきの間に注入し、口腔粘膜から吸収させるお薬です。
- ジアゼパム点鼻液(スピジア点鼻液):鼻腔内に投与するジアゼパム製剤で、てんかん重積状態に対するレスキュー薬として使用されます。2歳以上が対象です。鼻腔内に投与するため、けいれん中でも比較的投与しやすいことが特徴です。
ただし、レスキュー薬はすべてのお子さんに必要というわけではなく、使用するタイミングや投与方法も一人ひとり異なります。
また、レスキュー薬を使用した後の対応についても、あらかじめ主治医から具体的な指示を受けておき、その指示に従ってください。発作が長引く場合や、意識・呼吸状態に問題がある場合などには、救急要請が必要となることがあります。
園や学校でレスキュー薬を使用する可能性がある場合には、保護者、主治医、園・学校の間で、「いつ、どのような状態になったら、誰が、どの薬を、どのように使用するか」をあらかじめ具体的に共有しておくことが重要です。
6.お子さん自身への説明ときょうだい児への配慮
小児期の治療では、お子さん自身の年齢や発達段階に応じて、「なぜ薬を飲むのか」「発作が起きたらどうすればいいのか」を分かりやすい言葉で説明することが大切です。
医療者が保護者だけでなく、お子さん自身にも分かるように説明し、納得しながら治療に参加してもらうことを「インフォームド・アセント」といいます。
成長とともに、自分の病気や服薬について少しずつ理解し、将来自分自身で健康管理ができるようにしていくことも大切です。
また、病気や通院のために、どうしてもてんかんのあるお子さんに手がかかりやすくなることがあります。そのようなとき、きょうだい児が寂しさや我慢を抱えてしまうこともあります。
「あなたも大切な存在だ」ということを、言葉だけでなく、一緒に過ごす時間や日々の関わりを通して伝えていくことも大切です。
結びに
子どものてんかんには、成長とともに自然に発作が治まっていくタイプから、長期的な治療や継続的な支援を必要とするタイプまで、さまざまなものがあります。
だからこそ、「てんかんだから」と一括りに考えるのではなく、そのお子さんの発作の特徴、発達段階、学校生活、ご家庭の環境に合わせて治療を考えることが重要です。
正しい診断と適切な治療、そして周囲の理解と温かいサポートがあれば、多くのお子さんが勉強やスポーツ、友人との交流を楽しみながら成長していくことができます。
「少し気になる動きがある」
「これまでと違う発作のような症状があった」
「学校生活でどのように対応してもらえばよいのか分からない」
「薬をいつまで続ければよいのか知りたい」
――そのような疑問や不安がございましたら、一人で抱え込む必要はありません。
発作の様子を動画に残し、気になることをメモして、かかりつけ医や小児神経専門医・てんかん専門医にご相談ください。
「これくらいなら大丈夫」と決めつけず、気になる症状があれば、まず相談する。
それが、お子さんの発作を正しく理解し、安心して成長を見守るための第一歩です。


