可逆性脳血管攣縮症候群
可逆性脳血管攣縮症候群とは
(「かぎゃくせいのうけっかんれんしゅくしょうこうぐん」と呼びます。)
急性に始まる激しい頭痛を主症状とする病気の一つです。
脳の血管が一過性に強い収縮を起こすために生じるものです。
入浴やシャワー、性行為、労作、息こらえ、感情的興奮などが引き金になります。
典型的には、1~数週間にわたって頭痛を繰り返します。
吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
原因不明の突然の強い頭痛の主な原因の一つです。
発症から2週間の間にくも膜下出血、脳出血、脳梗塞を合併するケースもあります。
20~50歳代(平均年齢は40代)に見られ、女性に多い(男女比は1:2-3)とされます。
症状は
雷に打たれたような突然の激しい頭痛(雷鳴頭痛)を、数日あるいは数週に渡って繰り返します。頭痛は、両側性のことが多く、頭部全体の重度の頭痛であることが多いです。3/4の症例では、急性の頭痛が唯一の症状であるとされています。
激しい痛みは1~3時間程度ですが、その後にも中等度の痛みが持続します。激しい頭痛は繰り返し起こることがあります。すなわち、1~4週間の間に、2~18回(平均5回)程度の激しい頭痛を繰り返します。
頭痛の引きがねとして、性行為、排便、排尿、運動、咳、くしゃみ、入浴やシャワー、笑い、感情、いきみ、息ごらえなどがあります。その他、産褥期、α交感神経刺激薬やセロトニン作動薬などの血管作動薬の使用後、違法薬物(覚せい剤、大麻、コカイン)の使用後、高カルシウム血症や高血圧の状態の際に起こることがあります。
吐き気、嘔吐、光過敏、音過敏など片頭痛と同様の症状を伴うこともあります。その他、時として脳血流障害に伴い視覚異常、感覚異常、失語症、片麻痺、けいれん発作などを生じることがあります。
画像検査
MRI(MRA)、造影剤を用いた3D-CTアンギオグラフィー、脳血管造影(カテーテル)検査などを行います。脳動脈が収縮と拡張を交互に繰り返す「数珠状外観(strings and beads appearance)」を認めた場合には、本疾患が疑われます。
脳血管の検査では、発症直後~1週間以内には異常がなくても、症状が出てから1週間以上して検査すると異常が明らかになることがあります。それが1~3ヶ月以内に自然に元へ戻るといった特徴を有します。
脳血管のれん縮は、発症から2~3週頃に最も顕著になります。発症から12週間以内にはほぼ完全に回復します。
経過中に合併する脳内出血、皮質性くも膜下出血、後部可逆性脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome: PRES)、 後部白質脳症症候群(posterior leucoencephalopathy syndrome : PLES)、 硬膜下血腫、一過性脳虚血発作や脳便塞の発症に注意しなければなりません。それに伴い、脳MRIでは、30-80%のケースで脳に異常を認めるとされます。
そのため、疑われる場合には画像検査を何度か繰り返し確認する必要があります。
鑑別診断
可逆性脳血管攣縮症候群と同様に、突然発症する頭痛との鑑別が重要です。くも膜下出血や脳動脈解離、下垂体卒中、脳静脈血栓症など命に関わる病気が鑑別疾患として挙げられます。
病態生理
交感神経の過活動、内皮の機能障害、酸化ストレスなどによって脳血管の緊張障害が起こることによると考えられています。これにより、脳表の小血管の拡張と「れん縮(収縮)」が起こり、更に「れん縮」が中血管、頭蓋内の主幹動脈へ順次広がっていくと考えられています。
治療は
原因となる薬剤がある場合には、その薬剤の中止が必要です。
可逆性脳血管攣縮症候群の引き金となる行為(性行為、労作、息こらえ、感情的興奮、入浴やシャワーなど)を避けて、暫くは安静にします。
薬としては、鎮痛薬、血管攣縮に対する薬(ベラパミル、ロメリジン、マグネシウム)、安定剤、抗てんかん薬(バルプロ酸など)などを使用します。
予後は
1~3ヵ月で自然寛解することが多いです。
雷鳴頭痛の多くは発症から1週間程度が最盛期で、その後は次第に落ち着いていきます。
雷鳴頭痛が繰り返す過程の中で、前述のごとく一過性脳虚血発作、PRES、脳浮腫、脳梗塞、くも膜下出血、脳出血など重篤な合併症を発症することがあり、これら合併症の程度によって予後が決まります。
死亡することは稀ですが、脳卒中を発症すると永続的な障害を来すことがあり、3~6%のケースでは後遺症を残します。初期の検査で異常がない雷鳴顕痛では、常にRCVSを念頭おいて慎重な経過観察が必要です。