脳室内出血
脳室内出血とは
左右ともに脳室内出血で、水頭症(脳室拡大)を伴う症例
中央近傍の白いところが血腫。その周辺の黒いところが脳室。
脳室内出血とは、様々な原因に伴い、脳室の内部に血腫が流れ込んだ状態を言います。
軽度の脳室内出血は、それ単独としてはそれほど問題になりませんが、大きくなると脳脊髄液の流れを阻害して、短期的には閉塞性水頭症を引き起こします。
また、血腫は徐々に洗い流され、吸収されていきますが、完全に焼失した後にも脳脊髄液の吸収障害が生じて交通性水頭症を起こすこともあります。
脳室内出血の原因は?
脳室内出血は、脳室の周囲を走行する血管の破綻による出血だったり、または脳出血(特に視床出血や脳幹出血)の血腫が脳室壁に達して脳室内に流出したものだったりします。
年齢ごとに分けると、新生児から高齢者まで様々な理由により様々な年齢で発症しうるものです。
こどもの脳室内出血
新生児期の脳室な出血は、殊に未熟児で多いものです。未熟児(特に1500g未満)では、脳室上衣下(脳室の壁をなす部分)の血管がぜい弱で、出征後間もない時期に出血しやすいものです。最近では新生児管理が発達し、以前よりも重症例が減少した印象がありますが、いまだ1000g未満の新生児では1/3~1/4で認められます。
小児期~青年期にかけて脳室内出血が起こることはそう多くありません。重症頭部外傷後に時折認められます。
成人の脳室内出血
30歳代前後で脳室内出血を認めた場合、それはしばしばもやもや病に伴うものです。もやもや病は小児期で症状を出しやすいものですが、小児期では脳梗塞を、成人になってからは脳出血を起こすことで知られています。
壮年期~高齢期の脳室内出血の原因の大半は、高血圧性脳出血が脳室内に破れ込んだものです(脳室内穿破)。上述のように、視床出血や脳幹出血などが脳室の近傍で発症し、もしくは極めて大きな出血となって脳室壁を穿破して、脳室内に流れ込みます。被殻出血や小脳出血でも増大すると時として脳室内出血を合併します。尾状核と呼ばれる脳室の外側壁のうち前方部分を構成する部位の血管が破たんしても脳室内出血になります。
次にこの年代でよく見かけるのは、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血に伴ってみられるものです。前大脳動脈の動脈瘤でしばしば認められます。症状や治療等はくも膜下出血に準じます。
その他、この年代では純粋な脳室内出血のように見えるパターンの出血で、もやもや病とは無関係のことも有り得ます。こうした場合には、脳室内の血管が破たんしたのかもしれません。
比較的稀ですが、動静脈奇形や腫瘍、血液凝固異常なども原因として考えなければなりません。
脳室内出血の症状は?
脳室内出血の主な症状は、急性水頭症に伴う症状です。つまり、頭痛だったりおう吐だったりすることもあります。ただ、脳室内出血で最も多くみられるパターンは、突然の意識障害のため救急車で搬送されるパターンです。様々な程度の意識障害を伴い、しばしば高血圧を合併しています。
なお、未熟児の場合は特殊ですので、いずれ別に解説する予定ではありますが、基本的には新生児集中治療室で管理され、毎日エコー検査を受けている間に出生翌日当たりに発見されます。
脳室内出血に対する検査
脳室内出血に対しては、脳内血腫と同様で、頭部CT検査が最も有用です。頭部CTでは脳室内に高吸収域(白い領域)を認めます。これが血腫ですが、血腫の量が少ないと脳室のサイズは通常と変わらないものである一方、血腫の量が多くなると水頭症を合併するようになり、脳室が拡大します。
なお、視床出血などでは側脳室や第三脳室に破れ込み、こうした部位に血腫の中心があります。出血量が多いと第四脳室にまで血腫が到達します。脳幹出血や小脳出血では第四脳室内へ破れ込みますが、出血量が増えると第三脳室から側脳室にまで血腫が逆流します。
脳室内出血を認めた場合、その原因が明らかであればMRIや脳血管造影といった追加検査は必要ありません。しかし、若年成人などでもやもや病や別の病気の可能性があれば、MRIや脳血管造影検査を追加すべきと言えるでしょう。
脳室内出血に対する治療
脳室内出血に対する治療を行うべきかどうかは、水頭症を合併しているかどうかで変わります。水頭症を合併していないような少量の脳室内出血では、血腫はいずれ洗い流されて消失しますので、手術を行う必要はありません。一方、水頭症を伴っている場合には脳を強く圧迫して二次的な問題を引き起こすので、水頭症を解除するためにも手術を行います。この場合に行う手術を、脳室外ドレナージ手術と呼びます。
脳室外ドレナージ手術
具体的には、右か左の前頭部の頭蓋骨に1円玉大の孔を開けて、その部位の脳表から脳室の内部に向かってチューブ(ドレーン、ドレナージカテーテルと呼びます)を挿入する手術です(脳室外ドレナージ手術)。カテーテルの先端は脳室の中に留置し、反対側の先端は体外に置いた専用の袋に連結します。実際には、その途中にドレナージ回路というものを介在させて、頭の位置を基準としてこの高さを調節して流量や頭蓋内圧をコントロールすることができます。基本は左右のうちどちらかでいいのですが、しばしば両側に行うことがあると思います。
ドレーンは挿入後、血腫が減少して水頭症が解除されるまで留置しておきます。早くて1週間以内、遅い場合には3週間程度かかるかもしれません。
この手術は比較的容易なもので、30分~1時間もすれば手技そのものは終わりますが、危険性や合併症がないわけではありません。まずは、脳表やその他の血管を損傷して、二次的な出血や脳梗塞を生じうるということです(それほど多くはありません)。それから、最も注意しなければならないのは、しばらくドレーンを留置したままになりますが、その間には体内と対外がカテーテルを介してつながった状態になっていますので、細菌が頭蓋内に入り込む可能性があります。すると、髄膜炎を引き起こすことになります。こうなると二次的な治療が必要となり、その後の経過にも大きく影響します。その他、ドレーンで脳を刺すことによるてんかん発症の危険性が指摘されることがありますが、これについてははっきりわかっていないと言っていいと思います。
内視鏡下血腫除去術
さて、ここまでは脳室にドレーンを挿入する手術の話をしてきましたが、他に内視鏡を使った方法もあります(内視鏡下血腫除去術)。これは、途中までは方法は同じです。つまり、左右どちらか血腫の多い方の脳の側の前頭部に1円玉大の孔を開け、そこから内視鏡を挿入します。そして、内視鏡で確認しながら血腫を吸引してしまいます。上手な外科医が行えば大半の血腫は消失してしまうかもしれません。この方法のデメリットを敢えて言うなら、単にドレーンを挿入するのと比較して脳に開ける穴が大きくなる点と、脳室やその周囲の構造物を傷めてしまう危険性があることだと思います。うまくいった場合には、ドレナージ手術よりも術後の経過はいいかもしれません。
手術以外の治療法
手術以外の治療としては、他の脳出血の場合と基本的に同じです。血圧降下剤、脳圧降下剤、止血剤、胃粘膜保護剤などを投与します。そして、出血の拡大が止まれば可及的速やかにリハビリテーションや栄養療法を開始することです。
慢性期の水頭症
時に、脳室内出血により急性水頭症が生じた後、血腫は吸収されてから慢性水頭症(交通性水頭症;脳脊髄液の吸収障害)に陥る人がいます。この場合には、脳室-腹腔シャント手術(脳脊髄液を腹腔内に流すためのチューブを体内に埋め込む手術)を行うこともあります。
脳室内出血の予後
脳室内出血の予後は、主に意識障害の有無によって変わります。新生児の場合は状況が大きく異なるので、別に記述します。それ以外の場合、若い人ほど意識障害からの回復は良好と言えます。高齢者では、意識障害からの回復は優れないかもしれません。いずれにしても、高度の意識障害が長く(週の単位で)続いた場合、意識は回復しても高次脳機能障害(思考や会話の障害)を残す可能性があります。また、脳出血に伴う脳室内出血の場合には、脳出血の状況や程度によっても予後は変わってきます。