硬膜動静脈瘻 | 福岡の脳神経外科 - はしぐち脳神経クリニック

硬膜動静脈瘻

Dural arterio-venous fistula

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硬膜動静脈瘻

硬膜動静脈瘻とは

硬膜動静脈瘻とは、簡単に言うと動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接繋がってしまう病気です。

同様の病気として、脳動静脈奇形というものがあります。脳動静脈奇形と異なる点は、脳の動脈ではなく、脳を覆う硬膜を通る動脈と、脳の静脈とが結びついてしまった点です。また、動静脈奇形とは異なりナイダスは存在しません。病態や症状、治療方針も脳動静脈奇形とは異なります。

動脈が毛細血管を介さずに直接静脈に流れ込む状態を“シャント(短絡)”と呼び、動脈と静脈がつながった部位を“シャントポイント”と呼びます。通常、シャントポイントは1か所とは限りません。

 

原因と機序は?

原因は明らかになっていない部分も多いのですが、基本的には後天性のもの(生まれた後に発生したもの)と考えられます。

わかっている範囲では、頭部外傷後脳の手術後に発生することがあるという点です。その他、静脈洞血栓症血液凝固異常ホルモンバランスの異常静脈炎などの原因もあり、局所の静脈の血栓に引き続き起こるものだという説があります。

硬膜動脈と脳静脈が結びついても、動静脈瘻を介して静脈へ流れ込む血流が少ないうちは症状を出しません。一方、血流が増えてくると、脳から心臓へ帰る静脈の血流を阻害するようになり、脳血流が停滞してしまいます。更には、動静脈瘻を介した血流があまりにも増大し過ぎると脳へ逆流するようになってしまいます。こうなると、脳血流障害により様々な症状をきたしたり、出血したりするようになります。

 

発生部位・症状は?

硬膜と脳が接している部位であれば、どこでもできる可能性はありますが、多いのは横静脈洞の近傍と、海綿静脈洞の近傍です。症状は、部位により異なり、脳の血流が悪くなった部位の症状が出ます。

横静脈洞

横静脈洞は耳の後ろ当たりの後頭部を横にまっすぐ走る大変太い静脈です。横静脈洞近傍の動静脈瘻の場合には、拍動性の耳鳴りのほか、頭痛、目の痛み、視力視野の障害のほか、その他の局所の神経障害による症状、けいれん、意識障害を伴うケースもあります。

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横静脈洞~S状静脈洞の動静脈瘻

海綿静脈洞

海綿静脈洞は、脳の最も深部、脳下垂体の左右にあり、深部の静脈血が集合するところです。この部位に発生すると、血流が目の方へ逆流して、目玉が飛び出たようになります(眼球突出)。その他、結膜の充血・浮腫、拍動性の雑音、複視(目の動きの障害により、ものが二重に見える)、目の痛み、頭痛などが生じます。

小脳テント部

小脳テント部の硬膜動静脈瘻は全体の10%未満ですが、脳出血・くも膜下出血を起こす可能性が高いと言われています。

その他

他の部位に発生することもありますが、横静脈洞近傍にできた場合と似たような症状を呈することが多いとされます。
出血を伴うと、脳出血による症状が出ます。

 

検査は?

硬膜動静脈瘻の存在を確かめるには、MRIが有用です。MRIでは拡張した血管や脳の浮腫などを画像で確認することが出来ます。MRA(MR血管撮影)では、局所的に異常な血管が発達しているのを確認することが出来ます。

CTでは、動静脈瘻に伴う脳出血や脳梗塞、脳浮腫が認められることがありますが、明らかな異常が認められないことの方が多いです。造影剤を使うと異常に拡大した静脈が見えることもあります。

MRIで硬膜動静脈瘻が疑われたら、脳血管造影(カテーテル検査)を行います。カテーテル検査を行うと、硬膜へ行く血管の末梢を通じて、見えないはずの脳内の静脈へ造影剤が流れ込むのを確認できます。

 

治療方針は?

治療すべきかどうか

明らかに積極的な治療の対象とすべきなのは、皮質静脈に逆流しているタイプです。このタイプでは順行性の脳の血流を阻害して、血流障害による症状を出しやすいと考えられているからです。

その他、拍動性の耳鳴り・雑音を伴う方、目の血流に影響があり眼圧の亢進を伴っている方なども治療の対象です。

経過観察する方法、頚部の動脈を圧迫する方法などにより自然軽快を待つこともありますが、症状を来している場合にはより積極的な治療戦略を取ります。

治療の方法は?

硬膜動静脈瘻の治療の基本は、カテーテル治療です。カテーテル治療には、動脈からアプローチする方法と静脈からアプローチする方法があります。

動脈からアプローチする方法では、複数あるシャントポイントを全て閉そくさせるのは容易ではなく、例え閉そくさせても再発する可能性があります。従って、静脈からアプローチする方法の方が優れているとされます。静脈からアプローチして、逆流のある静脈を根元から詰めてしまいます。この治療がうまく行けば、症状は消失します。

静脈からのアプローチが困難な場合、また静脈からのアプローチで完全閉塞に持ち込めなかった場合にはやむを得ず動脈からのアプローチを用いることもあります。最近は、動脈からの塞栓に用いる塞栓物質にも優れたものが出てきているので、今後、動脈からのアプローチの成績の向上も期待されます。

その他、症例によっては開頭手術を用いることもあります。

とりわけ、小脳テント部の硬膜動静脈瘻は全体の10%未満ですが、脳出血・くも膜下出血を起こす可能性が高いと言われています。この部位に関しては、カテーテルによる経静脈的・経動脈的治療のみでは治療困難であり、しばしば開頭手術との併用、もしくは開頭手術単独による治療を目指します。

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小脳テントの動静脈瘻

頚部(頭蓋頚椎移行部)の硬膜動静脈瘻は、しばしばくも膜下出血の原因となります。手術を行うことが多いのですが、経動脈的なカテーテル塞栓術を併用したり、カテーテル単独で治療したりすることもあります。

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くも膜下出血で発症した頚部の動静脈瘻

海綿静脈洞の動静脈の場合、頸動脈を頚部で圧迫する治療で30%が改善したという報告もあります。ただ、診断がつかないまま自己判断ですると危険ですので、決して自己判断で行わないでください。

 

予後は?

経過観察しても自然に治癒することは稀ではないようです。但し、脳の静脈に逆流しているような症例では出血や脳梗塞を起こすリスクが高まりますので、積極的に治療を行うべきと言えます。

年齢や症状、リスク、治療により改善する可能性を総合的に判断して治療を受けましょう。