頚動脈狭窄症 | 福岡の脳神経外科 - はしぐち脳神経クリニック

頚動脈狭窄症

Carotid stenosis

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頚動脈狭窄症

頚動脈狭窄症とは

 

頚動脈が細くなった状態で、脳梗塞の重要な危険因子の一つです。主に、動脈硬化が原因とされ、高血圧喫煙高コレステロール血症糖尿病などが関与します。以前は、欧米人に多いとされてきましたが、食生活の欧米化に伴い、日本人でも多く見られるようになってきました。

頚動脈とは、大動脈から分かれる太い枝の一つです。首を通過して頭部に行く血流の大部分を担っています。前頚部の左右の端の付近を指で触れると、その拍動を感じることが出来ますが、この強い拍動が頚動脈です。

頚動脈は、首の中ほどから顎に近いところで2つに分かれます。この2本の血管をそれぞれ内頚動脈、外頚動脈と呼びます。

内頚動脈は脳に血流を届ける大変重要な血管で、外頚動脈は主に顔面や頭皮など、頭蓋骨の外側の部分に血流を届けます。この、頚動脈が内頚動脈と外頚動脈の2つに枝分かれする部分が動脈硬化で細くなり閉そくしやすいことが知られています。

ここが細くなると、様々な機序で脳梗塞を引き起こします。一つは、単純に細くなって脳血流が足りなくなり、脳梗塞になってしまうというものです。もう一つは、動脈に付着した動脈硬化性の物質(プラーク)が血管から剥がれて血流に乗って末梢の血管で詰まってしまうというものです。末梢の血管とはすなわち脳の血管ですので、脳の血管の一部が閉そくしてしまい、脳梗塞(脳塞栓、のうそくせん)になってしまいます。

一般に、狭窄の程度が高度であるほど、脳梗塞になりやすい傾向にあると言えます。

 

診断は?

頚動脈狭窄症が発見されるきっかけとしては、脳梗塞や一過性脳虚血発作になった方がその原因を精査しているうちに見つかる場合と、無症状の方が頚動脈の検査を受けてたまたま見つかる場合とがあります。後者の場合、心臓や他の血管に動脈硬化性の病気があり、全身を調べて見つかるケースや、脳ドックで見つかるケース、何らかの脳に関する症状があり、調べているうちに偶然見つかるケースなどがあります。

診断に有用な検査として、MR血管撮影(MRアンギオグラフィー、MRA)頚動脈エコー検査造影剤を用いた3D-CTアンギオグラフィー(3D-CTA)脳血管造影検査などが挙げられます。また、血流動態の評価に有用な検査として、脳血流SPECT、経頭蓋脳血流ドップラー検査などがあります。

それぞれの検査は、その役割が異なります。

 

MRアンギオグラフィー,MRA

MRAは、MRIを用いた検査で、脳や脳血管の評価と同時に頚動脈の狭窄の有無、その大まかな狭窄の程度を把握することが出来ます。また、最近ではMPRAGE法やBlack-Blood(BB)法を用いて頚動脈に付着したプラークの性質を評価する(頸動脈プラークイメージング)こともできます。

ICS MRA

 

頚動脈エコー

頚動脈エコーは、頚動脈の狭窄度をより多角的、直接的に把握できるほか、血流速度や付着したプラークの性状評価にも有用です。ただ、狭窄部が首の上の方にある方は顎の骨が邪魔になって評価が不十分になることもあります。

ICS_US 縦切り
ICS_US 輪切り

 

3D-CTA

3D-CTAは、狭窄の部位や程度を立体的に視認するのに最適と言えます。また、他の周囲の血管や骨との関係もわかりやすいので、むしろ手術に向けた術前検査として有用な検査です。

ICS 3D-CTA

 

脳血管造影検査

脳血管造影検査も、血管の狭窄度の把握にはとても重要な検査です。他の検査と比較しても最も細い部位を正確に、かつ客観的に評価できる指標と言えます。血管の中にカテーテルを入れる検査であり、危険性を伴うので必須ではありませんが、逆に後述の血管内外科手術はこの検査を応用したものであり、治療に結びつく極めて重要な検査であると言えます。

ICS angio

その他、治療を前提として受けるべき検査に、心血管の血流動態評価があります。頚動脈に狭窄がある方には、心臓の血管にも狭窄があるケースが多く、全身麻酔で治療を受ける場合には必ずチェックを受けておかなければなりません。

 

治療は?

治療を行った方がいいかどうかは、脳梗塞になったことにあるかどうかと、狭窄の程度によって異なります。

脳梗塞になったことがなく、狭窄の程度が直径で50%未満と比較的軽度の方については、通常は抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)の内服治療が勧められます。

頚動脈狭窄が原因と考える脳梗塞がある場合、狭窄の程度が50%を超える中程度~高度の方については、抗血小板薬の内服治療に加えて、外科治療を含めて治療を検討します。

明らかに関連する脳梗塞がない場合でも、70~80%を超える高度狭窄があれば治療を検討した方がいいと言えます。

外科治療には2種類の方法があります。

一つは、全身麻酔のもと、首の表面から頚動脈に直接到達して、血管を切り開いて内部のプラークを取り除く方法(頸動脈内膜剥離術;CEA)です。

もう一つは、脳血管造影検査の応用で、血管の内部から専用の風船(バルーン)を開いて拡張させておいてからステントと呼ばれる再狭窄防止のための人工物を挿入してくる方法(頚動脈ステント留置術;CAS)です。

 

頸動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy; CEA)

全身麻酔で行います。

手順・方法は

左右のうち、狭窄のある方の首をやや進展した状態で手術を行います。

首のしわに沿って表面の皮膚を約10cm切開して、皮下組織を剥離していくと、奥に頚動脈と頚静脈が並んで走っているのがわかります。途中、頚静脈の枝である顔面静脈を処理したり、舌下神経などを避けたりします。頚動脈に辿り着いたら、丁寧に剥離しつつ、内頚・外頚動脈の分岐部を確認します。そのあたりの外頚動脈からは上甲状腺動脈が甲状腺に向かい、上向咽頭動脈や後頭動脈などの枝が確認できることがありますが、内頚動脈からは枝分かれは一切ありません。

総頚動脈~内頚動脈にかけて細くなっている部分を完全に確認できたら、いよいよ血管にメスを入れます。

その際、このまま血管を切開すれば大量出血しますので、血流を一時遮断します。一時遮断の時間は、一概には言えませんが凡そ30分程度です。この間、脳梗塞にならないのかどうかという疑問がわきますが、それは患者さんによって異なります。術前・術中の評価で血流が不足する可能性が懸念される場合には、人工バイパス血管である内シャントというものを挿入します。内シャントをどの程度の症例に使うのかは施設によって異なります。

血流遮断を開始したら急がなくてはなりません。丁寧にかつ迅速に血管内部のプラークを血管の外膜から剥離します。案外きれいに剥離面が出来るものです。最後にプラークの取り残しを処理し、開いた頚動脈を再縫合します。再縫合後に血流を再開してから、問題がないことを確認して、傷を閉じたら終わりです。

CEAのリスク

CEAの危険性としては、術中の血流不足などによる脳梗塞のほか、他の血管系(特に心臓)の血流障害局所の神経の麻痺(嚥下障害・声枯れなど)局所の腫脹創部感染術後の頚動脈の閉そく局所からの出血などが挙げられます。また、長期的には再狭窄する症例があります。

また、CEAとCASの両者に共通のことですが、これまで細かった血管が急に太くなると脳の血流が突然著しく増加します。一部の人では脳血流が多すぎる状態になってしまい、過潅流症候群という病態を起こしてしまいます。過潅流症候群では、頭痛の他、けいれん脳出血をきたすことがあり、大変危険です。術前の予想から、過潅流症候群になる可能性が高い人では術後にゆっくり麻酔を覚ませたり、十分に血圧を下げるなど、対策が必要です。

 

頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting; CAS)

基本的には、局所麻酔のみで行います。

手順・方法は

脳血管撮影検査の応用で行う治療です。通常は、そけい部を通る大腿動脈からカテーテルを挿入します。大動脈を通って、頚動脈にカテーテルを誘導します。

CASの治療の最中には、細くなった頚動脈の壁から飛び散ったプラークが血流に乗って脳血管を閉そくしないように注意しなければなりません。そこで、カテーテルを一旦狭窄部を越えて挿入し、末梢で小さな穴の開いた傘状のフィルター(プロテクトデバイス)を広げておきます。

それから治療に入ります。まず、細くなった部分で血管拡張用の風船(バルーン)を膨らませて、血管を広げます。次いで、ステント(メッシュ状の金属の筒)を開いて再狭窄しないようにします。更にもう一度バルーンを膨らませて内腔を広げます。最後に、飛び散ったプラークの欠片をフィルターごと回収して終わりです。

CASのリスクは

CASの危険性の大部分は、脳血管造影検査の危険性と共通です。つまり、血管壁の損傷による出血や脳梗塞カテーテル挿入部の腫脹やそこからの出血造影剤によるアレルギー反応腎臓の機能障害コレステロール塞栓などです。その他、CEAと同様で長期的には再狭窄する症例があります。

また、CEAと同様に、過潅流症候群に対する対策が必要です。

 

CEAか、 CASか?

どちらを選んでも大丈夫な症例は少なくありません。

どちらを選択するかには、幾つかの要素があります。

 

 アクセスルートの問題:動脈硬化が高度で、カテーテルを進めていく経路に問題がある方では、CASが難しくなります(CEAが有利)。
 腎機能やアレルギーの問題で造影剤を使用できない方ではCEAを行います。
 心臓に問題がある方は全身麻酔のリスクが高まりますので、CASを優先させるか、心臓の問題の治療を行ってからCEAを行うことになります。
 同様に、超高齢者では全身麻酔のリスクを避けるためにCASを行う傾向にあります。
 その他、呼吸機能やその他の全身麻酔の危険性が高い方CASを選択したいところです。
 頚部の手術や反対側の喉頭麻痺がある患者さんではCEA後の喉の合併症が増えるため、CASがいいと考えられています。
 頸動脈の狭窄部位があまりにも高いところ(頭に近いところ)にあるケースでは、CEAが困難なため、CASの方が向いています。
 反対側の頚動脈が閉塞してしまっている場合、CEAによる危険性が高まるとされています(CASを選択)。
 プラークの性状が柔らかいものや、逆に血管の全周に渡る高度な石灰化を伴い硬くなっているものでは、CEAの方が危険性が低くなり、より確実に行うことが出来ます。

 

いずれの治療を選択するにしても、頚動脈が細くなった原因である高血圧や喫煙、高コレステロール血症といった危険因子の排除のために行うべき治療は並行して行わなければ病状は進行して、結局は再狭窄や脳梗塞発症に至ってしまいます。