脳血管れん縮 | 福岡の脳神経外科 - はしぐち脳神経クリニック

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脳血管れん縮

脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく); くも膜下出血後の脳梗塞

 

くも膜下出血は、脳の表面にある血管が破れて血液が漏れ出し、脳を覆ってしまう病態です。この状態では、脳の表面や脳の隙間を通る大小さまざまな動脈や静脈が血液にさらされます。血液が動脈周辺にたまり、血液が動脈を刺激することで、動脈が異常に収縮する現象が起こります。この現象を脳血管攣縮」と呼びます。

脳血管攣縮は、くも膜下出血後、主に4日目から14日目にかけて発生しやすいとされています。動脈が過度に収縮すると、脳への血流が減少し、脳が必要とする十分な酸素や栄養を供給できなくなり、脳梗塞を引き起こす可能性があります。

脳血管攣縮の発生率は、症候性の場合で約30%、脳血管造影検査では70%に達すると言われています。症状としては、頭痛や発熱、意識障害、片麻痺、失語などがあり、くも膜下出血の量が多い場合や若年者では発生頻度が高くなる傾向があります。

 

脳血管攣縮が起きる理由

脳血管攣縮が起こるメカニズムには、まだ完全には解明されていない部分がありますが、主に血管の内壁に存在する血小板や血液中の化学物質が関与していると考えられています。私の見解では、この反応は脳動脈瘤の再破裂を防ぐための体の自然な防御反応であると考えています。つまり、血管が収縮して血流を減らすことで、動脈瘤への血流を減少させ、その結果、再破裂を予防している可能性があるのです。

脳動脈瘤が破裂した後、最初の数日が再破裂しやすい時期であり、脳血管攣縮はその時期に対する予防的な反応といえるかもしれません。

 

攣縮の診断は?

脳血管攣縮の診断には、主に以下の方法が用いられます。

  • 経頭蓋ドップラーエコー(TCD): 頭の外から超音波を当てて、脳の主要な血管の血流速度を測る検査です。血管が縮んでいると、血流速度が速くなるため、攣縮の程度を評価できます。
  • 3D-CTA(3D血管造影): CTスキャンと造影剤を使って、脳の血管を立体的に映し出す検査です。血管の形や狭くなっている部分を詳しく見ることができます。
  • MRA(MR血管撮影): MRI(磁気共鳴画像)を使って、脳の血管の様子を画像化する検査です。放射線を使わずに血管の状態を確認できます。
  • 脳血管造影: カテーテルという細い管を血管に通し、造影剤を注入してX線で血管を直接撮影する検査です。最も詳しく血管の状態を把握できます。

 

脳血管攣縮対策

くも膜下出血後には、脳血管攣縮を起こしやすい時期があります。しかし、脳血管攣縮に対する有効かつ確実な予防・治療方法は未だ確立されていないと言っても過言ではありません。

脳血管攣縮を予防するための方法として、現在行われている治療法には以下のものがあります。

1.血圧を通常よりも高めに維持すること

2.血管内の水分量を多めに維持して血管の拡張に努めること

3.血液中の赤血球濃度を適度に保つこと

4.血流改善を目的として使用でいる幾つかの薬を使用すること

5.脳血管内治療

などです。

 

血圧を高めに維持する

血圧を下げると血流が脳に届きにくくなります。したがって、血圧を通常よりも高めに維持し、末梢まで血液が行き渡るようにします。どのくらい血圧を上げるかは、施設の方針や患者個々の状態によります。

 

脳血管の水分ボリュームを保つ

血管内の水分量が足りないと血管は十分に拡張できません。体内の水分量を保つことが重要ですが、過剰な点滴を行っても体内の調節機能で余分な水分は尿として排出されます。従って、脱水症状を避けることが大切です。

 

血液の濃さを維持する

血液が薄すぎると血管内のボリュームを維持できませんが、濃すぎると血流が滞る可能性があります。血液の濃度はヘマトクリット値などでコントロールされます。

 

血流の改善を促す薬の使用

血管収縮を防ぐために使用される薬剤として、塩酸ファスジル(商品名:エリル)があります。この薬は、血管を収縮させるRhoキナーゼの作用を抑制します。通常、動脈瘤治療後、出血リスクが低下してから、発症14~15日頃まで点滴で使用されます。高度の脳血管攣縮が見られる場合には、脳血管造影を行い、選択的に脳動脈に薬を注射することもあります。

その他、オザグレルナトリウムも点滴で使用することが認められてはいますが、あまり使用されていないと思います。脳血管攣縮の予防として、アスピリン(抗血小板薬)やカルシウム拮抗薬も使用されることがあります。これらの薬は、血流を改善し、血小板の凝集を抑制することで、脳梗塞を予防します。

 

近年、脳血管攣縮の治療薬として注目を集めているのがクラゾセンタン(商品名:ピヴラッツ)です。
クラゾセンタンは、エンドセリンという強力な血管収縮物質が血管の受容体に結合するのを阻害するエンドセリン受容体拮抗薬に分類されます。エンドセリンは脳血管攣縮の主要な原因の一つと考えられており、クラゾセンタンはその働きを抑えることで血管の収縮を防ぎ、脳への血流を維持する効果が期待されています。

本薬剤は日本でも承認されており、今後の臨床現場での活躍が期待されています。
ただし、高齢者や心機能が低下している患者さんでは、体に水分がたまりやすくなり、肺に水がたまって呼吸が苦しくなる**(肺水腫)**といった副作用が生じる可能性があるため、慎重な使用が求められます。

脳血管内治療

薬物療法で効果がない場合や、重症の脳血管攣縮に対して行われます。カテーテルを使って血管の狭くなっている部分を広げたり(バルーン血管形成術)、血管拡張薬を直接投与したりします。

 

経過、その他

軽度の脳血管攣縮であれば、適切な治療によって回復することが多いです。しかし、重度の場合には、脳梗塞が起こり、麻痺や言葉の障害、意識障害などの後遺症が残ることがあります。最悪の場合、命に関わることもあります。

また、未治療の脳動脈瘤が残っている患者さんに対して、血圧を上げたり、血管を広げる薬を使ったりする治療は、動脈瘤の再破裂のリスクを高める可能性があるため、慎重に行われます。

全身麻酔下での手術では、一時的に血圧が下がり脳血流が低下するため、脳梗塞のリスクを高める可能性があります。そのため、くも膜下出血後できるだけ早期(3日以内)にくも膜下出血の原因となった脳動脈瘤の治療を行うことが推奨されています。

このように、脳血管攣縮はくも膜下出血後の非常に重要な合併症であり、その予防と治療には様々なアプローチが試みられています。

 

特に、新しい治療薬であるクラゾセンタンの登場は、今後の脳血管攣縮の治療成績向上に大きく貢献することが期待されます。

最終更新日:2025年4月27日